買収直後に、西田氏は社外の勉強会で講師を務め、買収の経緯を語っている。その勉強会に出席したある企業幹部が当時を振り返ってくれた。

 「西田さんは5000億円くらいで決着したかったが、そうはいかず、最後は社長一任をとりつけたとおっしゃっていた。それではガバナンスの効きようがないなと感じた」

 何が何でもウエスチングハウスが欲しかったのだろう。思い切った構造改革なしには生き残れないという危機感の裏返しである。しかし買収金額が高すぎたら、元も子もなくなってしまう。

「買収金額が下がったから買収する」に徹する日本電産の永守会長

 日本電産の永守重信会長兼社長は、欲しいから買収するのではなく、買収金額が下がったから買収するという考えに徹している。積極的に買収に動いたのはリーマン・ショック前後の円高局面だ。また、久しぶりに日本電産が買収に動いたのも、昨年の円高局面だ。

 「いくら良い事業でも、高い値段で買ってしまえば15%以上の営業利益率を達成しにくくなる」と永守氏は雑誌のインタビューに答えている。7年連続で増収増益を続けるカルビーの松本晃会長も、海外事業拡大のためには企業買収を必須と考えているが「今は高すぎて手を出さない」と明言している。

 当たり前のようだが、日本企業にはそれができない。安くなるまで待つという姿勢は、裏を返せば「安くなったら買う」ということだ。だが現実にはリーマン・ショックや1998年のアジア金融危機など「絶好の買い場」に欧米企業が殺到しているとき、日本企業は買収するどころか、そこから逃げ出す企業が圧倒的に多かった。投資のタイミングを完全に間違えている。

 それは企業価値に対する正しい評価をする力をもっていないからだ。

味の素によるロシアの研究所の買収は数少ない成功例

 日本では数少ない成功例のひとつは味の素による、ロシアのジェネチカ研究所の買収だ。正確に言えばヨーロッパ・ナンバーワンのアミノ酸研究所として知られた、ロシアの国立研究機関と合弁会社を1998年に設立、その後、2003年にその合弁会社を完全子会社化したという経緯だが、その実態としては1998年のロシア経済危機で破たんに追い込まれたジェネチカ研究所を買収したようなものだ。