源氏の内乱「宇治川の戦い」平氏から見れば

 後白河法皇に見捨てられた義仲が、法王と対立して従兄弟に討たれる経緯は、嫉妬して鬼と化し、源綱に退治される「宇治の橋姫」の話と、どことなく重ります。また、最後に顔を射抜かれて死んだ義仲は、鬼のように恐ろしい形相だったに違いありません。

 そんな「宇治川の戦い」は、平氏から見ると、憎き源氏のおもしろい内乱に見えたことでしょう。しかも源氏の中心人物である頼朝や義経が深く関わっています。源義仲を「嫉妬に狂った鬼女」に例えて茶化してみたくなったとしても不思議ではありません。

 また、物語の冒頭「嵯峨天皇の御世に」の書き出しからも源氏の物語なのではないかと窺えます。嵯峨天皇は源氏の祖先で、義仲も頼朝も義経も嵯峨天皇の血を受け継いでいるからです。「嵯峨天皇の御世に」は、源氏の内乱を暗示していると考えられなくもありません。

 もちろん、平家物語の剣巻に描かれた「宇治の橋姫」が、源義仲を比喩した物語だという説は私が勝手に想像しているだけで、歴史的に証明されている話ではありません。

 ただ、平安時代まで、源氏物語のタイトルになるほど“京の都から離れた宇治に住む恋人”とされていた「宇治の橋姫」が、平家物語でいきなり鬼になり、そのまま現代に語り継がれているのは事実です。なんだか「宇治の橋姫」が可哀想になってきました。

 鎌倉時代から約800年もの間、人々が信じてきた物語を変えることはできません。しかし次の800年に向けて、少しずつでも経緯を知る人が増えれば「宇治の橋姫」のイメージは変わっていくでしょう。まずはこのコラムを「宇治の橋姫」に捧げたいと思います。

◆参考資料
 橋姫神社 説明看板
 日本文学電子図書館: 平家物語 剣巻
 京都府宇治市観光公式サイト など