恩人を知る

 もちろん、月照の辞世の句を読み解いたくだりは仮説にすぎませんが、そう仮定するだけでも、西郷を思い、可能性を見抜いた月照の配慮が感じられて心が温まります。西郷隆盛を京都で救った月照は最後まで恩人だったのです。

 私たちの人生においても新しい世界へ歩み出す時が訪れ、そこには必ず、誰かが関わっているはずです。その人が恩人かどうかは、すぐにわからないことが多いものです。

 たとえば、春の人事異動で意に添わない部署への異動を命じられたとしましょう。あなたは、そんな辞令を出した上司を憎んでしまうかもしれません。しかし、上司は会社の新しい方針を知っていて、あなたの才能を伸ばすために新しい部署への異動を命じたのかもしれません。つまりチャンスを与えるつもりかもしれないのです。

 ただ、恩は後にならないとわからないものです。そして自分の価値観だけでやる気を失ってしまったり、ましてや絶望して自殺などという道を選んでしまったら、せっかくのチャンスをみずから手放してしまうことになります。

 だからこそ、まずは示された道に飛び込んで、一歩を踏み出した方がいいのです。そのうち、西郷隆盛が蟄居中に「桜田門外の変」が起こったように、環境を一変する出来事が起こるかもしれません。人生一歩先は闇、というか、明るくなるかもしれないのだから。

 最後に西郷隆盛の名言をご紹介しましょう。

 間違いを改めるとき、自ら間違っていたと気付けばそれでいい。そのことを捨てて、ただちに一歩を踏み出すべし。

 間違いを悔しく思い、取り繕うと心配することは、たとえば茶碗を割り、その欠けたものを合わせてみるようなもので、意味がないことである。

 挑戦して失敗してもやり直せばそれでいいこと。西郷隆盛は「将来のことなど考えず、今を懸命に生きるのが良か」と教えてくれているようです。

◆参考資料
 西郷隆盛全集(大和書房)
 西郷隆盛(池波正太郎著/角川文庫)
 京都府、京都市観光サイト・パンフレット  など

※当コラムは信頼できる史料に基づいて、著者独自の視点で、現代人にマッチする表現で書いております。表現が足りない部分についてはご容赦ください