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戦えない軍隊だったからこそ、日本は平和だった

 少し前はまったく状況は違っていた。

 例えば、竹下登氏が首相になった時のことだ。僕は竹下氏に、「日本には自衛隊というものがあるけれど、戦えない軍隊じゃないか。それでいいのか」と尋ねたことがある。すると竹下氏は、「だからいいんだ。戦えない軍隊だから、日本は平和なんだ」と答えた。

 軍隊というものは、戦えるならば戦ってしまう。太平洋戦争が始まったきっかけも同じである。

 戦争を知る世代の総理大臣は、「軍隊というものは、仮に勝てなくても、戦えるなら戦ってしまう」ことをよく分かっていた。戦えない軍隊だからいいんだ、と考えていたのである。これは竹下氏のみならず、歴代総理大臣である宮沢喜一氏、田中角栄氏、小泉純一郎氏も同様の意見を持っていた。

 日本は対米従属だが、その代わりに憲法9条を盾にして、70年以上戦争に巻き込まれるのを回避してきた。だからこそ、戦後のほとんどが自民党政権だったが、歴代首相は誰も改憲を掲げなかった。

 ところが冷戦が終結し、徐々に日本国内で「自立論」が広がり始めた。冷戦時では、日本の敵はソ連だった。日本が戦って勝てるわけがないから、米国に守ってもらう必要があり「対米従属論」の姿勢が支持されていた。

 冷戦後、特にリベラル派は「もうその必要はなくなり、自立すべきではないか」といった意見を主張し始めたが、一方で正反対の見方も強まった。日本はこれまで米国の防衛力に依存してきたが、米軍は日本から撤退する可能性もある、という見方だ。この立場からは、日本は対米関係を今まで以上に密にしなければならないのではないか、となる。こうして「米国からまともに相手にされる国になるべきだ」との意見が出始めたのである。

 こういった意見を強く主張したのは保守系の学者たちであった。さらには保守系のメディア、自民党も同様である。

トランプ政権から、米国の日本に対する要求が変わった

 保守系の学者や自民党の目標は、集団的自衛権の行使を容認することだった。安倍晋三首相は2015年5月にこれを実現した。さらにその後、16年の参議院総選挙で、改憲勢力は3分の2議席を獲得した。

 僕はこの年の9月、安倍首相と直接会って話をした。「そろそろ憲法改正か」と話すと、こんなことを言われた。「大きな声では言えないが、実は、憲法改正をする必要がなくなった」。

 なぜかと聞くと、「集団的自衛権の行使ができない時は、米国から相当な圧力があり、日米関係が危なくなるリスクがあった。ところが安全保障関連法が施行されて集団的自衛権を行使できるようになると、米国は何も言ってこなくなった。米国は、これで満足したから、憲法改正をする必要はなくなった」と話した。

 オバマ政権までは、確かに安倍首相の言うように、米国は集団的自衛権の行使容認だけで納得していたようだ。

 しかし、トランプ氏が大統領に就任すると、流れが大きく変わる。次から次へと高い兵器の購入を迫った。さらにトランプ氏は、「日本の防衛費はGDP比1%となっているが、2%に引き上げるべきだ」と主張してきた。