ところが、そこにも歪みが生じ始める。91年にソ連が解体すると、貧しい東欧諸国からたくさんの人々が職を求め、欧州の豊かな国々へと流入した。さらには、イスラム国(IS)の問題で空爆されたシリアなどから数百万の難民が押し寄せてきた。

 こうして、英国では国民が仕事を奪われる形になり、国内の反発が強まったのである。

 さらにEUには、域内の貧しい国を豊かな国が助けるというシステムがある。英国は助ける側だから、国民がそのためにお金を負担しなければならない。すると、「なんで自分たちは、仕事を奪われ、しかも金まで出さなければならないのか」という不満が高まっていった。これが英国のEU離脱の原因である。

 米国や英国だけではない。フランス、オランダ、ドイツ、多くの国で極右政党が勢いを増した。来年前半にはイタリアで総選挙が行われるが、右派が躍進する可能性がある。

日本こそ、各国協調の要になるべきだ

 欧米でグローバリズムの歪みによる嵐が吹き荒れる中、日本だけが安定している。安倍自民党は、過去5回の選挙でいずれも大勝している。与党が勝ち続ける国なんて、世界を見回しても今は日本しかない。

 理由はいくつかある。一つ目は、日本は東洋の島国なので、移民や難民の問題に直面していないこと。

 二つ目は、国内の格差がそれほど大きくないということだ。日本は大企業の経営者でも、年収はせいぜい数億円程度である。一方、米国の経営者の年収は数十億円と桁違いに多い。欧州でも日本の5~6倍はある。

 三つ目は、最も大きな問題だ。日本の政党は、経済政策という点では与野党すべてがリベラルなのである。

 基本的に自民党は保守という立場をとっているが、経済政策でいえば相当リベラルである(詳しくは、本コラム「消費税の引き上げなんてどうでもいいことだ 」参照)。

 バラマキのようなリベラル的政策を続けてきたことで、日本の借金は1000兆円を超える規模にまで膨らんでしまった。

 さらに問題なのは、自民党のみならず、野党も全部リベラルだということだ。かつて民主党が政権を取った時、「民主党は自民党とは全く違う政治をやる」と主張していたものの、中身はほとんど変わらなかった。一つ差があると言えば、自民党の方が経験豊富である分、政権運営がうまい。違いはそれだけである。

 四つ目の要因は、野党が非常に弱いということだ。野党はどこもアベノミクス批判を繰り返すが、全く対案が出てこない。日本国民は、アベノミクスに賛成しているわけではないが、野党からまともな対案が出ないから、消極的選択として自民党に票を投じているのである。

 五つ目は、自民党内の政治家たちが、皆、安倍首相のイエスマンになってしまったことである。本コラム「“茶坊主”ばかりの自民党が崩壊するシナリオ 」でも述べたが、中選挙区制の時代は自民党内に主流派、反主流派、非主流派があり、活発な議論が行われていた。

 ところが、小選挙区制に変わってしまったことで、反主流派も非主流派もなくなってしまった。一つの選挙区から1人だけが当選するという小選挙区制では、執行部の推薦がなければ自民党から立候補できない。すると、主流派の議員だけが当選するようになってしまう。結果的に、自民党内のほとんどが安倍首相のイエスマンになってしまうという構図である。

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