米軍基地の辺野古移設に向け、埋め立て工事が進められている(写真=Richard A.De Guzman/アフロ)
共同通信社が12月15、16日に行った世論調査で、安倍内閣の支持率が「不支持」が「支持」を上回るという結果が出た。「支持」は42.4%で11月2、3日の前回調査よりも4.9ポイント減少。「不支持」は4.6ポイント増加し44.1%となった。
原因は二つある。一つは、外国人労働者の受け入れ拡大を目的とした改正入管難民法だ。国会で十分な審議をしないまま強行採決されたことが、支持率低下につながっている。
もう一つは、沖縄県にある米軍の普天間基地の辺野古への移設問題だ。政府は県民の反発を退け、辺野古沿岸部へ土砂を投入し始めた。これには、どの新聞も「強引すぎる」と批判している。
まず入管法改正について、実のところ野党は外国人労働者の受け入れ拡大には賛成している。現在、日本国内では約60万人の労働力が足りないと言われており、野党としては外国人労働者の受け入れを増やすことは必要と考えている。
問題は、なぜ政府与党は国会審議を短くし、法案の成立を急いだのかという点である。見方を変えれば、具体的な審議を避けようとしているようにも受け取れる。
実は、外国人労働者の受け入れを拡大することについて、与党は反対している。特に、安倍晋三首相の応援団ともいえる人たちは、本音のところでは強く反発している。
安倍首相が「これは移民政策ではない」と主張しているが、今回の入管法改正は実質的には移民政策と言わざるを得ない。
もし、長い時間をかけて国会審議をやれば、この法案は移民政策の問題になってきてしまう。移民という話になれば、安倍氏に近い人々は猛烈に反対する。だからこそ、安倍首相は何としても移民の問題として指摘される前に強行採決したかったのである。
沖縄の辺野古移設問題、まずは「日米地位協定」の改定が必要だ
もう一つの大きな問題は、沖縄の基地移設問題である。沖縄県の面積は、日本全域のたった約0.6%に過ぎないが、国内の米軍基地の7割がある。なぜ、こんな状態になっているのか。
沖縄県が日本に返還される前、沖縄県に置かれている米軍基地は、国内全体の50%強にすぎなかった。返還後にその比率が上がっているのである。これでは、沖縄県民が納得するわけがない。
ところが、一つ問題がある。沖縄の玉城デニー県知事も野党も皆、辺野古への基地移設は反対しているが、反対し続けるということは、世界で最も危険と言われる普天間基地からの移設がいつまで経っても実現しないということでもある。
マスメディアも、「辺野古への移設は暴挙だ」と痛烈に批判している。僕がメディアの幹部たちに「では、どうすればいいのか」と聞いても、どこも対案を持ち合わせていない。
野党の幹部たちにも「反対ばかりして、普天間基地をこのままにしておいていいのか」と聞くと、「そう言われると、困りますね」と返ってきた。
僕は、やはり野党もマスメディアも、もう一度、「日米地位協定」の見直しを主張すべきではないかと思う。米軍との地位協定は、日本のみならず、韓国、フィリピン、ドイツなど、様々な国が結んでいる。ところが冷戦終結後、ほとんどの国が地位協定を改定している。日本だけが変えないまま、「対米従属」の立場を維持している。
日米地位協定は、占領政策の延長にある。これまでのあり方を見直すには、やはりこの協定を改定しなければならないのである。例えば、普天間基地を沖縄県外、あるいは他国に移設するよう米国に要求しようとするならば、地位協定の改定を要請しなければならないのだ。
ところが、野党もマスメディアもこの点を指摘しない。「辺野古への移設を実現したいならば、県民と話し合いをすべきだ」との主張もあるが、話し合いをしてもあまり意味はない。沖縄県は、反対の姿勢は崩さないからだ。
こういった背景を踏まえた上で、野党もマスメディアも、辺野古への移設に反対するならばどうすればいいのかという対案を考えなければならない。
そもそも、今の野党に力がない原因は、「対案がない」ということである。例えば、第二次安倍政権になってから5回の選挙が行われたが、すべて自民党が勝利している。僕はその度に、野党の幹部たちに「国民はアベノミクスの批判など聞きたくはない。あなた方が政権を取ったら、どういった経済政策を行うのか、対案を出さなければならない」と言ったが、どの党からも対案は出なかった。
国民はアベノミクスに満足しているわけではなく、野党から対案が出ないから我慢しているのである。ここが、日本の政治における最も大きな問題の一つだ。
では、なぜ対案が出ないのか。日本人の多くが政治に関心がないからである。今、フランスや英国で大きなデモが起こっている。韓国でも、かつて「朴槿恵退陣」を訴える170万人規模のデモが起こったことがある。もし、他国で森友・加計問題が起きたら、大規模なデモが起こるだろう。
つまり、日本の国民はそれほど政治に関心を持っていないということである。言い方を変えれば、だからこそ、安倍政権は安泰なのである。テレビでも、政治に関する話題は極めて少ない。なぜかといえば、政治問題を取り上げると視聴率が落ちるからである。ここも大きな問題だと思う。
日米地位協定の改定は、北方領土返還の実現にも必須
沖縄での米軍の基地移設問題の解決にはやはり、日米地位協定の改定が必須である。僕は安倍首相にもこのことを伝えた。今後の動きに注目している。
なぜ、歴代首相は地位協定を変えようとしなかったのか。民主党政権でも変えようとしなかった。理由はシンプルで、安全保障の問題にきちんと対応したくないからである。
自民党の歴代首相は、安全保障は、米国に依存することでよしとしており、「対米従属」の立場を維持しようとしているのだ。
しかし、これが解決しない限り、沖縄の基地移設問題は解決しないと思う。問題の根源は、日米地位協定にある。
日米地位協定の改定は、沖縄の問題のみならず、北方領土問題にも必要である。ロシアが2島あるいは4島を返還する場合、現状の地位協定のままでは米軍が北方領土に駐留することになる。それはプーチン大統領としては絶対に許容できない話である。地位協定を改定し、「米軍は北方領土に駐留しない」と約束しなければ、北方領土返還は実現しないだろう。
ただ、おそらく安倍首相は、北方領土の問題についてはすでにトランプ大統領と話し合いを済ませていると思う。安倍首相はそこで相当な手応えを得ているからこそ、先日の日露首脳会談ではプーチン大統領に「2島プラスアルファ」を主張できたのではないか。
沖縄の基地移設問題、北方領土問題、日本にとって極めて重大な問題への対応に迫られる中で、安倍政権はどう動くのか。僕は日米地位協定の行方に注目している。
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