先日、僕はドワンゴ人工知能研究所の山川宏所長を取材したが、彼も「この研究結果にはリアリティがある」と述べた。

 5年後に145万人の人手が不足することはほぼ確実なのだろうが、それ以降はどうなるのか。全く逆の状況になる可能性もあるのだ。

 今、AIおよびロボット技術において、「モノをつかむ」という研究が進められている。画像認識などの発達により「目で見る」ことが可能になり、さらに「モノをつかむ」ことも実現できれば、例えば農業は完全に自動化されるだろう。田植え、草取り、収穫など、すべて機械が担う日が4~5年先に実現する、との見通しが出ている。

 つまり5年後の145万人不足を過ぎると、人手が大量に余る可能性があり、それがどれくらいの規模になるのかはっきり分からないのである。政府が具体案を示せない要因は、ここにある。10年先の見通しが立てられないし、見誤るのがこわいために具体論が出せないのである。

 さらに安倍首相は、「これは移民政策ではない」と主張し続けている。もし、「移民」と定義づけてしまったら、外国人労働者は日本に定住することになる。これは日本人と同じ保証や権利を受けられるということである。

 すでに200万人もの外国人労働者が日本に滞在している。これが300万人を超える規模に増えていった後に、「人余り」となってしまったら、国内の雇用はどうなるのだろうか。
 近年、欧米では移民の問題が深刻化している。英国がEUから離脱した大きな原因も移民によって国民の雇用が失われたことだった。英国のみならず、欧州各国では移民に反対する極右政党が勢力を伸ばしている。それだけ国民の移民に対する不満が高まっているということである。

 ついには、移民・難民に非常に寛大に対応していたドイツのメルケル首相も失脚することになった。米国のトランプ大統領も、移民・難民には強く反対している。世界中がそういった流れの中にある。安倍首相も、安易に「移民」と認められないのだろう。

 今、確かに日本は深刻な人手不足に陥っているが、「5年後の145万人不足」の先がどうなるかは分からない。

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