竹下登氏が首相になった時、僕は「日本には自衛隊というものがあるけれど、戦えない軍隊じゃないか。それでいいのか」と尋ねたことがある。すると、竹下氏は、「だからいいんだ。だから日本は平和なんだ」と答えた。

 軍隊というものは、戦えるならば戦ってしまうものだ。太平洋戦争が始まったきっかけも同様だった。

 開戦前、米国と戦って勝てると思う日本人は誰もいなかった。昭和天皇も米国との戦いに反対していて、参謀総長の杉山元と海軍司令部総長の永野修身に、「こんな戦争を始めてもいいのか」と尋ねた。

 すると永野は、「今なら戦えます。しかし、1年半経てば石油がなくなるから、戦えなくなります。今のうちに戦いましょう」と答えた。こうして、日米の戦争が始まったのである。

 戦争を知る世代の総理大臣は、「戦える軍隊は戦ってしまう」ことをよく分かっている。日本は対米従属だが、その代わりに憲法9条を盾にして、70年以上戦争に巻き込まれるのを避けてきた。自衛隊の戦死者は一人もいない。

 だからこそ、戦後のほとんどが自民党政権だったが、歴代首相は誰も改憲を掲げなかったのだ。

改憲論、自立論が出始めた

 安倍首相は、戦争を知らない世代で自民党初の総理大臣だ。彼は、憲法改正をして、自衛隊を戦える軍隊にしたいと考えている。

 さらに今、「対米従属はけしからん。日本は自立すべきだ」という声が上がりつつある。

 沖縄県の米軍基地移転問題でも、こういった意見が出始めている。一部の新聞は、「日本は中央集権国家で、地方自治を全く無視している」と社説で訴えた。

 沖縄県は、県知事をはじめ県民の多くが辺野古への移設に反対している。ところが政府は、その声に耳を傾けず、移設工事をどんどん進めている。これについて痛烈に批判しているわけだ。

 その気持ちは分かるが、ならば日本は米国に対して、どのような立場をとればいいのか。

 沖縄基地問題を突き詰めれば、「米軍は沖縄から撤退しろ。日本から撤退しろ」ということになる。本当に米軍が沖縄から撤退すれば、日本はどうなるのか。

 日本は米国から自立すべきだと言うが、具体的にどのようにするのか。この議論が全くない。

 今回の衆議院選挙でも、自立論も対米従属論もほとんど議論されていない。与野党ともにない。テレビや新聞も触れていない。憲法改正を焦点とするならば、なおさらここを議論すべきではないか。

 おそらくは、与野党も、マスメディアも、政府も、どうしたらいいのか分からないのだろう。だから、この問題は「なかった」ことにしている。

 「難しいことは、なかったことにする」。日本は長い間、難しい問題はこのように対処してきた。

 一部では、「日本は自立するために、核兵器を持ち、自衛隊を国防軍に変えるべきだ」という意見もある。「日本はNATO(北大西洋条約機構)に参加すべきだ」という声さえもある。