しかも安倍首相は、憲法改正について、9条の1項と2項は変えないまま自衛隊を明記すると言っている。9条の1項、2項とは、次のようなものだ。

「一項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」

「二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

 つまり、日本は戦力、交戦権を持たないということだ。しかし、日本の自衛隊は世界の軍事力ランキングで第7位に位置しており、戦力を持っているのである。こうしたなかで憲法を改正するならば、憲法9条の2項をどうするのか、ここを議論しなければならない。

 しかし、安倍首相は「2項は変えない。しかし自衛隊は明記する」と主張している。これは大きな矛盾である。石破氏もこの点を問題視し、指摘している。

 僕が懸念しているのは、自民党の大部分がこの問題に気づいていないことだ。なぜ、自民党内から反論が出ないのか。要するに自民党の議員たちは、ほとんどが安倍首相のイエスマンということである。

安倍首相は党員票を獲得するために地方を回っている

 9月の総裁選は、議員票については安倍首相が圧倒的に優勢だといわれている。安倍首相に反発することによる影響をおそれるためだ。

 ところが、党員票についてはどうなるか分からない。2012年の総裁選では、党員票は石破氏が165、安倍氏は87と、石破氏が圧勝していたのである。その後、議員票で逆転した。

 自民党の幹部たちは、次のように話している。「議員票では安倍首相が有利だが、もし石破氏が党員票で405のうち200に迫ったら、安倍首相が当選してもそれで十分と言えないのではないか。少なくとも、安倍首相は党員票の6割以上を獲得しなければならない」。

 だから今、安倍首相は必死になって地方を回り、党員票を何としてでも獲得しようとしている。ポイントはやはり安倍首相が「党員票6割」のラインを超えられるかどうかだ。

 さらに石破氏は、「総裁選で安倍首相と様々な討論をしたい」と言っている。僕も当然すべきだと思う。しかし、安倍首相は石破氏との議論は避けるだろう。

 なぜか。安倍首相は、石破氏と議論をすれば総裁選に負ける、と考えているからだ。安倍氏はこれまで5年半、首相を務めてきた。政策や問題について、石破氏は批判しやすい立場にある。二人が議論をすれば、石破氏が有利になるのである。そのことは、安倍首相本人も分かっている。

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