イノベーション量産化技術

 次に、僕はパナソニックを取材した。同社はもはやこれまでのような家電メーカーとしてやっていけないのではないか、との見方がある。日本は人件費が高く、価格競争の面では、韓国や中国に太刀打ちができないのである。

 では、次の一手をどうするのか。僕は、パナソニックのシリコンバレー研究所に所属するビジネスイノベーション本部副本部長の馬場渉氏に話を聞いた。

 昨年、馬場氏は「HomeX」というプロジェクトを開始した。これは何か。従来は、居住者はすでに完成している洗濯機やエアコン、冷蔵庫、テレビなどの家電製品に合わせて生活をしてきた。これからは、居住者に合わせた家電製品、そして住宅を開発するという。

 続いて馬場氏は「イノベーション量産化技術」という言葉を発した。僕はこんな言葉は聞いたことがない、と彼に言うと、「パナソニックの社員たちも、この言葉が理解できなかった」と答えた。

 馬場氏によると、イノベーションとはプロセスさえきちんと作れば誰にでも起こせるものだという。それはどういうことなのか。「モノを作ることではなく、モノを活用したフレームワークのある『コト』をたくさん作ること。これがイノベーション量産化技術だ。今までは、パナソニックは家電というハードウェアを開発していたが、これを進化させるために、ハードウェアからソフトウェア開発の発想に切り替える」と述べた。

 別の機会に、パナソニックに“復帰”した、家電ベンチャー、セレボの前社長である岩佐琢磨氏を取材した。彼はかつてパナソニックを辞めた時のことを次のように振り返った。

「私は0から1にするのが好きです。ところが大手メーカーは、0を1、1を10にする挑戦をほとんどしない。僕は、今は需要がなくとも、新たに作ったら面白いというものを0から開発し、1から10、100へと育てたい」と述べた。こうして彼は、パナソニックを辞め、セレボを立ち上げた。

 ところが、パナソニックのビジネスイノベーション本部の副本部長に就任した馬場氏が「HomeX」プロジェクトを開始したところから、流れが変わる。馬場氏は、岩佐氏に「ぜひパナソニックに協力して欲しい」と声を掛けた。「パナソニックには、0から1を作るという発想をする人材がいない。どうか戻ってきて欲しい」と強く要請。岩佐氏はパナソニックの子会社の社長になったのである。

 一度辞めた人間を引き戻さなければならないほど、パナソニックは事業改革をする必要があった。それだけ将来に危機感を覚えているのである。

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