都議選は都民ファーストの圧勝で終わった(写真:時事)
2日に投開票された東京都議会選挙で、自民党は記録的惨敗を喫した。現有57議席を大きく割り込み、過去最低の38議席からも下回る23議席という散々な結果である。
自民党はこの厳然たる事実から逃げるべきではない。いや、逃げることはできない。
都議選は、小池百合子知事が率いた地域政党「都民ファーストの会」が積極的に支持を集めた「勝利」ではない。自民党が支持を失った「惨敗」なのだ。最大の責任は、安倍晋三首相にある。つまり、都民の安倍首相に対する不信感が原因だ。
「安倍1強」が揺らぎ始めたのは、森友学園問題からだ。一番の問題点は、森友学園が小学校開設にあたり購入した国有地が、約8億1900万円も値引きされていたことだった。しかし、財務省が記録を破棄したとして、証拠の文書が全く出てこなかったため、メディアもこれ以上は安倍首相を追及しようがなかった。
ところが、そこで安倍首相が余計なことを言った。「もしも、森友学園問題で、私や妻が土地の売買について関係していたということになれば、私は総理大臣も国会議員も辞める」。この発言により、野党もマスコミも昭恵氏を必死で追うことになった。収束するはずの問題が、大事になってしまったのだった。
さらに、加計学園の獣医学部開設問題が浮上した。安倍首相は、「岩盤規制にドリルで穴を開ける」と言ったが、それについても疑問が残る。岩盤規制に穴を開けること自体は、悪いことではない。問題は、なぜそれが愛媛県今治市の加計学園だったのかという点だ。
加計学園の理事長は、安倍首相と30年来の友人だという。そこでますます疑惑が深まった。
安倍首相は、「加計学園問題には全く関係がない。もし関係があれば、責任を取るのは当然だ」と言ったが、不信感が晴れることはなかった。文科省の文書が次から次へと出てきたからだ。それらには、「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」と官邸から圧力があったことが記録されていた。
政府は当初、これらを怪文書として片付けようとした。ところが、怪文書だと切って捨てられない事態にまで発展してしまった。
もうどうすればいいか分からない自民議員
通常国会の強引な幕引きにも問題があった。通常国会が長引けば、加計問題で安倍内閣の支持率が落ちると危惧した与党は、共謀罪法案について本会議での強行採決に踏み切った。これも、国民の怒りを買う結果となった。
さらには、自民党の豊田真由子議員の大暴言、都議選での稲田朋美防衛相の非常識な発言も問題となった。次から次へと国民の拒否反応を強める言動が立て続けに起こった。
一連の結果が、自民党惨敗へと繋がったのだ。
一方、小池氏側にも問題があった。今回の都議選での最大の問題は、どの党も東京都の問題点を挙げず、東京をどのようにしていくかというビジョンを示さなかったことだ。
僕は、少なくとも小池都知事が率いた都民ファーストくらいは、東京都の問題点やビジョンを示すのではないかと思っていたが、残念なことにその期待は外れてしまった。
小池都知事は、長い間ブラックボックスだった都議会を透明化した。この功績は大きい。しかし、東京をどうするのかというビジョンを示さなかったことで、これから小池氏の支持率は次第に落ちていくだろう。
また、都民ファーストの当選者たちはほとんどが素人で、実力はないに等しい。小池氏の風に背中を押されているだけだ。自民党のスキャンダルや失言も彼らの追い風になった。
自民党は大敗の責任をどう取るのか。党員たちが本気で自民党を健全にしようと思うのならば、首相の辞任を求める声が党内から出てくるはずだ。少なくとも従来の自民党はそうだった。
僕は都議選後、複数の自民党の議員に取材した。彼ら自身も本音ではこれからどうすればいいのか分からないようだ。本来なら党内から安倍首相への辞任の声が高まってもおかしくはないが、今は内閣改造の議論ばかりでそんな要求は出ていない。国民の不信感は全く反映されていないということだ。
僕は、自民党の議員たちに「安倍首相に辞任を要求すべきだ」と言ったが、彼らは「そんなことはとても言えない」と答えた。
思考する意欲がない自民議員
どうも自民党の議員たちは、思考する意欲を失っているようだ。皆、ひたすら安倍首相のイエスマンになっていて、政策や自民党の問題について考えようとしない。惨敗した今もなお、自民党をどうすればいいのか、どうするべきなのかということを考えていないのではないかと思わざるを得ない。
今月3日にテレビ東京で放送された報道番組で、僕は石破茂氏と対談した。そこで、「今まで何人の総理に辞任を要求したのか」と聞いたら、石破氏は「3人です」と答えた。「では、4人目は?」と聞くと、彼は黙ってしまった。
今回の自民党惨敗によって、憲法改正は実現できなくなったと思う。少なくとも安倍内閣では無理だろう。
僕は以前、安倍首相に「本気で憲法改正をやろうとするのであれば、民進党と協調しなければ実現はできない」と言ったことがある。安倍首相も「その通りだ」と答えた。
憲法改正は国民投票を経る。もし、自民党が公明党や日本維新の会とともに強引に憲法改正に持ち込むようなことがあれば、国民投票で否決される可能性がある。自衛隊の根拠を規定する改憲案が否決されるということは、自衛隊の正当性そのものを危うくするということだ。これは安倍内閣の問題以上に、国家の重大な問題である。
だからこそ、自民党も民進党など野党の了承なしに国民投票に進もうとはしていない。ただ、都議選で惨敗した自民党に対し、野党が了承することはもはやありえない。これが、僕が安倍政権下での憲法改正がなくなったと考える理由だ。
自民党の劣化が招いた都議選惨敗は、今後の政権運営にも大きな影響を及ぼすだろう。経験則的に、都議選で負けた党がその後の国政選挙で勝利した例はない。
自民党は、「都議選は地方選だから、国政選挙で負けたのとは違う」と言っているが、それは自民党の論理だ。一般には通用しない。
東京都民が自民党に呆れ果てたということは、全国民からも呆れられているということだ。「都議選は地方選だ」などと言えば言うほど、国民の不信感は強まっていく。安倍首相の今後の政権運営は、非常に厳しいものになる。
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