
6月12日、シンガポールで歴史上初めてとなる米朝首脳会談が行われた。米国のドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による約13秒間という固い握手が注目を集めた。
米朝首脳会談が行われたこと自体はどのメディアも評価している。しかし、会談の中身についての評価は今ひとつだ。
首脳会談の前、ポンペオ米国務長官は北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」、いわゆるCVIDの要求を強調していた。しかし、その点は共同声明に盛り込まれなかったのである。
また、非核化をいつまでに決着するのかといった期限も示されなかった。ところがトランプ氏は、「北朝鮮の体制を保証する」と約束したのである。
以上の点から、金正恩氏にとって有利に事が運ばれたのではないかという声が挙がっている。トランプ氏は、安倍首相がかねてより強調している拉致問題についても言及したとするが、それに対して金正恩氏がどう反応したかは報じられていない。
全体的に見て、やはり北朝鮮側にとって有利に感じられる内容である。しかし、トランプ氏は米朝の実務者協議について「うまくいっている。過去の合意とは異なる真のディールがまとまるかどうか、間もなく判明する」とツイッターで強調していることから、このまま妥協で終わらせるつもりはないのだろう。
トランプ氏は米朝首脳会談の先行きに楽観的な見方を示しているが、ポンペオ国務長官は「北朝鮮が非核化に真剣に取り組もうとしているのか見極める必要がある」と慎重な姿勢を崩さない。
そもそも、なぜトランプ氏は米朝首脳会談の実施を決めたのか。冒頭でも述べたが、今回の米朝首脳会談は歴史上初である。トランプ氏は歴代大統領が実現できなかったことをやったわけだ。
トランプ氏は、言うならば歴代大統領ができなかったことをやるのが「好き」なのだ。特に、前大統領であるオバマ氏がやったことをすべて否定している。例えば、パリ協定離脱、オバマケアの廃止、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、イラン核合意の破棄。あるいは、オバマ氏が行わなかったシリア攻撃も同様だ。
つまり、オバマ氏やブッシュ氏のやったことを全部否定し、自身の成果を強調したいのである。米朝首脳会談も、その一端だ。
忘れてはならないのは、トランプ大統領の頭の中は、秋の中間選挙をいかにして勝つかという問題で占められているということだ。今のところ上院では勝つだろうと言われているが、下院では危ないとの見通しが強い。
もし、ここで負けるようなことがあれば、ロシアゲートの問題が再浮上してしまう。トランプ氏としては、なんとしてでも勝たなければならないのである。
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