安倍首相は新たな局面をどう乗り切るのか(写真:AFP/アフロ)
5月21日、愛媛県が国会に提出した加計学園の獣医学部新設に関する文書に、2015年2月25日に加計孝太郎理事長と安倍晋三首相が面会したと記録されていることが明らかになった。そこには、加計氏の「新たな学部を新設したい」という話に対し、安倍首相は「新しい獣医大学の考えはいいね」と賛同するというやりとりも記載されているという。
この話で、柳瀬唯夫元首相秘書官(現経済産業審議官)が5月10日の参考人招致で述べた話が、非常にリアリティを帯びてきた。
柳瀬氏は2015年2月以降に計3回も加計学園関係者と面会している。その時、獣医学部新設について非常に前向きな姿勢を示していたという。さらには、「これは首相案件である」とまで述べていたという。
ここに大きな謎がある。京都産業大学をはじめとする複数の大学が獣医学部新設を政府に申請する中で、なぜ首相秘書官が特定の教育機関の関係者と複数回も面会したのか。
立憲民主党の長妻昭政調会長も、次のように指摘している。「安倍内閣で始まった国家戦略特区は、認定事業数が283もある。その中でも、柳瀬氏が面会したのは、加計学園だけだ。『アポがあれば誰でも会う』と言っているが、加計学園だけに3回も首相官邸で会うというのは不自然だ」と述べている。その通り、明らかにえこひいきである。
そもそも首相秘書官が勝手にやったとするならば、上司である安倍首相に責任を問われるはずである。
柳瀬氏は参考人招致で、一連の対応について「安倍首相の恣意はない。報告もしていない」と述べた。何のためにこんなことをやったのか、動機が分からない。
首相秘書官の経験がある江田憲司氏は、柳瀬氏に対し「首相秘書官は総理大臣と一心同体だ。許認可や補助金の対象事業者と会うと、それは総理に累が及び、疑念を招く」と指摘。「首相に要望を伝えに来る事業者や自治体関係者は、まず内閣府や役所の担当部署に来て、必要があれば担当部署から首相秘書官に報告がある」と説明した。
その上で、柳瀬氏に「あなたはその義務を怠るほど無神経ではない」と主張した。これに対し、柳瀬氏は回答しなかった。
「疑惑は晴れていない」が83%
朝日新聞が5月19、20日に行った世論調査では、加計学園問題についての安倍首相や柳瀬氏の国会での説明に対し、「疑惑は晴れていない」が83%、「疑惑は晴れた」は6%という結果が出た。さらには、安倍政権が問題の疑惑解明について「適切に対応していない」と答えたのは75%、「適切に対応している」はわずか13%だった。
つまり、ほとんどの国民が柳瀬氏の答弁に対し、国民は「虚言である」と感じたということだ。安倍政権の対応にも納得していないのである。
加藤勝信厚生労働相(当時官房副長官)も、学園関係者と面会したことを認めた。その時、学園の事務局長に「10回以上(獣医学部新設を)チャレンジしたけど難しい」という話があったという。
愛媛県の文書によると、その後に安倍首相が加計氏と面会し、次に柳瀬氏が面会したという流れだ。この話は、非常にリアリティがあると思う。
しかし、これが事実だとすれば、安倍首相の「加計学園の計画の話は2017年1月20日まで、何も知らなかった」という発言は嘘だということになる。もし、嘘だということを認めたら、安倍首相は当然辞任しなければならない。これは完全にアウトだと思う。
野党は、加計氏と柳瀬氏の証人喚問および愛媛県知事の参考人招致を求めている。しかし、政府は受け入れない。野党にはこれを実現させる力もない。新聞各紙が5月22日に一斉に報じた、加計学園の獣医学部計画に対し首相が「いいね」と返答した話も、これまでのようにまた、数日で沈静化するのだろうか。
加計学園をめぐる政府の動向において、明らかに不審な点が多々ありながらも、安倍首相が辞任する気配がない。さらには、安倍首相は9月に控える自民党総裁選に参戦する可能性もある。これを、どう考えればよいのか。
僕は5月22日に、自民党の二階俊博幹事長にインタビューをした。加計学園問題について、「こんなことがまかり通ってしまう自民党でいいのか。森友・加計問題について安倍首相は、少し神経が緩んでいるのではないか。安倍首相に直接意見を言えるのは、あなたしかいない」と指摘した。
疑惑に対し、二階幹事長は何も語らなかった
その上で、「このままでは、日本政府は世界各国からの信頼を失ってしまう」と訴えた。二階氏は、何も言わなかった。二階氏は、おそらく安倍首相にこの話を伝えるだろうが、多くを期待できない気がしている。
この状況で安倍首相が強行突破し、総裁選にも参戦するようなことになれば、あまりにも理不尽な話である。長い間政界を見てきたが、こんな事態は今まで一度もなかった。僕は、この状況に非常に腹を立てている。
僕は、近いうちに安倍首相に直接会い、加計学園問題について真相を語り責任をとるべきではないかと伝えたいと考えている。そんな矢先、財務省は5月23日、森友学園への国有地売却に関する決裁文書の改ざん問題を巡り、「廃棄した」としていた学園側との交渉記録を国会に提出。国会答弁と辻つまを合わせるため、交渉記録を廃棄したことも明らかにした――。今後の動向をさらに注視したい。
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