「棄権投票率」25%が意味するもの

 マクロン氏を待つのは欧州が抱える大きな問題だ。

 今回の仏大統領選挙は、無効票・白票をあわせた「棄権投票率」が25%を記録し、50年ぶりの高さになった。棄権投票が多いということは、マクロン氏もルペン氏も支持しない人が多かったということだ。国民は、マクロン氏もルペン氏も「フランスの在り方」を示していないと思ったのだろう。

 そもそも、現在の欧州最大の問題は何か。

 昨年の米大統領選挙では、世界中のマスコミのほとんどが「ヒラリーが勝つ」と報じていたが、ふたを開けてみると勝利したのはトランプ氏だった。トランプ氏が勝った理由は、グローバリズムを否定したからだ。

 米国で初めてグローバリズムを推進したのは、レーガン元大統領だった。人、モノ、金が国境を越えて、国際市場で自由に移動できるようになったことは米国に繁栄をもたらした。その一方で国内の賃金は上昇し、デトロイトなどの北部工業都市や、西南部の工業地帯にある工場がメキシコや中国などに移転してしまった。

 こうして米国内の製造業の雇用情勢は悪化し、グローバリズムに反対する声が上がり始めた。トランプ氏はこの問題に焦点を当てて「何よりも米国の雇用を増やす。それが米国第一主義だ」とアピールし、国民の支持を予想以上に集めたのだった。

 その前に英国でも同様のことが起きていた。僕は、英国でEU離脱を問う国民投票が行われる前に、同国の政治家、学者、ジャーナリストら10人に電話取材をしたが、ほとんど例外なく「絶対に離脱はしない」という答えが返ってきた。ところが、結果的には離脱派が勝利した。

 なぜ、彼らは読み間違えたのか。政治家も学者もジャーナリストも、ある種のエリートだ。エリートは理想を追いかける。思えば、EUとは一つの大きな理想だった。かつてヨーロッパ全土は二度の大戦で戦場と化した。「もう二度と戦争はしない」。この誓いのもと、欧州を一つにしようとしてEUが誕生した。

 EUでは、人、モノ、金の移動を自由にし、欧州の豊かな国々が貧しい国々に資金援助をする仕組みがつくられた。ところが、かつてソ連の衛星国だった東欧諸国がどんどんEUに加盟し始めると、その風向きが変わり始めた。貧しい東欧諸国がEUに加盟すると、仕事を求めて英国などの豊かな国に移動した。イスラム諸国の難民たちもどんどん入国していった。

 すると、英国民は移民・難民に雇用を奪われ、生活が苦しくなった。その上、英国は豊かな国として、貧しい東欧諸国に資金援助をしなければならない。英国民の不満は高まり、その不満がEU離脱の引き金を引いた。

 つまり、欧州の最大の問題は、難民・移民だと言える。フランスも例外ではない。同国は、人口の1割以上が移民で占められている。

 極右政党のルペン氏は、その問題にフォーカスして、「EUからの離脱」「難民・移民の阻止」をスローガンに掲げた。一時はルペン氏の支持率が上昇していたが、先に述べた理由から、最終的には「EUからは離脱しない。難民・移民も阻止しない」という良識的な主張を掲げたマクロン氏が勝利した。

 現大統領であるオランド氏の社会党候補は敗北したが、オランド氏はマクロン氏の当選を祝福した。このことが意味するのは、「フランスはこれまでと変わらない」という事実だ。

 もう1人、マクロン氏の勝利を祝福した人物がいる。ドイツのメルケル首相だ。同国では、秋に総選挙を控えている。メルケル氏は移民の受け入れに寛容だから、国外政治では信用が厚いが、国内では批判が強まっている。

 メルケル氏は、仏大統領選挙の結果に注目していたはずだ。このままマクロン氏勝利の流れが続けば、ドイツの総選挙でメルケル氏が勝利する可能性は高いと思う。