福島第一原子力発電所の事故から6年が経った。今、原発はどういう状況なのか。
先日、東芝が開発したサソリ型ロボットが、福島第一原発の敷地の中でも格納容器内の放射線量が最も高いとされる2号機に投入された。ところが、スロープ上に積もるゴミに足を取られてしまい、結局2時間ほどで立ち往生してしまったという。
こんな状況の中で、福島第一原発を廃炉にできるのだろうか。
事故から6年が経った福島第一原子力発電所。(代表撮影/ロイター/アフロ)
問題は、技術的なものだけではない。事故に伴う費用がどこまで膨らむのか、明確には分からないのだ。当初、廃炉・賠償費はおよそ2兆円と見積もられていたが、その後11兆〜12兆円に修正され、今では21.5兆円まで膨らんでしまった。実際は30兆円を超えるのではないかとの話もある。
今、東京電力はメルトダウンした核燃料などが固まった「燃料デブリ」を取り出そうとしているが、原発反対者のみならず推進者の間からも「無理なのではないか」という声が上がっている。第一、燃料デブリを取り出したとしても、どこに持っていくのか。その場所がない。
地元の反対が強いから、非現実的な計画を打ち出している
そもそも、なぜ福島第一原発の燃料デブリを取り出して移動させようとしているかといえば、地元の反対が強いからだ。しかし、持っていく場所がない。実のところ、地元の反発を抑えるために、できもしないことを「やれる」という格好を見せているだけのようだ。
使用済み核燃料の問題も同様だ。今、日本には1万6000トンもの使用済み核燃料がある。そのほとんどが青森県六ケ所村に集まっているが、ここからどうすればいいのか誰も分からない。
原発反対を主張している小泉純一郎元首相が「反対」と言い出したきっかけは、2013年にフィンランドの核廃棄物の最終処分場「オンカロ」を視察したことだった。固い岩盤の地下400メートル以上の場所にトンネルを掘り、使用済み核燃料を埋めるのだが、これが無害化するまでに10万年もかかるという。この10万年という途方もない数字が、小泉元首相を反原発に向かわせた。
火山列島の日本には10万年も安定しているような場所はないから、オンカロを建設することはできない。行き場のない使用済み核燃料をどうするのか。
おそらく、日本が最初に米国から原発を導入したときには、「使用済み核燃料の処理方法については、米国がそのうち技術を開発してくれるだろう」と安易に考えていたはずだ。
ところが、いまだに米国はその技術を開発していない。砂漠の真ん中に頑丈な鉄容器をつくり、その中に使用済み核燃料を保存しているのだ。
米国は広い国だから砂漠の真ん中に保存すればいいだろうが、日本はそれができない。最終処理技術も開発されていない。
そこで日本は、かつて1兆円を超える国費を投じて高速増殖炉「もんじゅ」を独自に開発した。核燃料サイクルを確立して、使用済み核燃料を再利用するためだ。しかし、問題が多発して、結局もんじゅは20数年もの間ほとんど稼働することがないまま、昨年12月に廃炉が決まった。
ところが今、政府は「もんじゅは廃炉にするが、核燃料サイクルの開発は続ける」と言っている。使用済み核燃料を生かすために、新しい高速炉を建設しようとしているのだ。
ここにも大きな問題がある。新しい高速炉の開発はいくつかの段階があり、まずは「実験炉」、次に「原型炉」、「実証炉」を経て、ようやく「実用炉」に進む。もんじゅは「原型炉」だ。
本来ならば、政府は原型炉の徹底検証をしなければならないのに、段階を飛ばして実証炉を開発しようとしている。あまりにも無茶苦茶な話だ。
地元の反発を抑えるための無意味な計画
民主党政権時代の2012年9月14日、野田佳彦首相(当時)は「2030年代末までに原発をゼロにする。使用済み核燃料の再処理もやめる。青森県の大間原発の開発計画も抜本的に見直す」と表明し、9月19日に閣議決定しようとした。しかし、それは実現できなかった。
なぜかと言えば、青森県が猛反発して、「もし使用済み核燃料の再処理をしないのであれば、六ケ所村で預かっているものをすべて各地の原発に返す」と言ったからだ。
もんじゅは停止しているから、核燃料を再利用することはできない。でも、本当に原発に返されたら困る。だから野田首相は、ほとんど意味を成さない使用済み核燃料の再処理を認めてしまった。さらには、青森県の怒りをなだめるために、大間原発まで認めてしまったのだった。
僕は、新しい高速炉開発についても、同じことを繰り返しているだけのではないかと思う。もんじゅを廃炉にすれば、六ヶ所村の使用済み核燃料の再処理は必要なくなってしまう。そうなれば六ヶ所村は使用済み核燃料を返すと言うだろう。それを回避するために、政府は無理矢理にでも「核燃料サイクルを確立する」と言っているのではないか。
このように、原発の周辺では今、地元の反発を抑えるために、その場しのぎの非現実的な計画を進めるようなことがたくさん起こっているのだ。
「責任者不在」が最大の問題だ
では、根本的な問題は何なのか。一番大きな問題は、自民党に原発問題の責任者がおらず、原発をどうするのかという具体的な計画が立てられないということだ。
福島第一原発事故が起こった当時は民主党政権だった。民主党は、論客は多いのだが、原発問題のような「汚れ仕事」を嫌う人も多い。しかし、そこで泥をかぶる覚悟をした男がいた。仙谷由人氏だ。
仙谷氏は、前原誠司氏、細野豪志氏、枝野幸男氏、古川元久氏らをまとめ、協力体制をつくり上げた。ここまではよかったのだが、仙谷氏が引退すると、みんなバラバラになってしまった。
当時野党だった自民党も、原発問題については民主党と協力する必要があると考えていた。そこで僕は、自民党の大島理森氏と仙谷氏を会わせ、協議をしてもらった。当時、通産省官僚で後に東電の役員になった嶋田隆氏、安倍首相の秘書官である今井尚哉氏が加わり、みんなで東電処理を行うこととなった。
その途中で自民党政権が発足し、最終的に原発問題の処理は大島氏がやったのだが、後に衆議院議長になってしまったことで原発問題から離れてしまう。結局、今は原発問題の責任者が不在なのだ。
その時に僕は、自民党の幹部たちに「原発の責任者を決めろ」と迫ったのだが、みんな嫌がった。こんな状況で、原発をどうするのか。使用済み核燃料をどうするのか。核燃料サイクルをどうするのか。今は誰も決められない。言ってみれば、とても無責任状態なのだ。ここに大きな問題がある。
僕は、自民党の幹部たちに、「河野太郎氏を原発の責任者に据えればいいのではないか」と言ったことがある。河野氏本人もやる気を見せていた。しかし、幹部たちは皆、いい顔をしなかった。
責任者不在では、原発問題は一歩も進まない
はっきり分かっていることは、日本で原発の新設は無理だということだ。どこに建設しようとしても、地元の強い反発は避けられない。今、原発は40年で廃炉にするという原則が定められているが、仮に60年に延ばしたとしても、あと30〜40年ですべてなくなってしまう。
そこで、日本のエネルギー計画はどうするのか。責任者不在の日本では、その点も全く議論できていない。
原発をなくすのならば、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを普及させればいいという意見もある。しかし、実際にどれくらいのコストがかかり、どれくらいの電力を生み出せるかなどといった具体的な見積もりすらできていない。
これが、今の実態だ。
政府はどうするべきか。自民党は最初に、「原発の新設はしない」と決めてしまうことが必要だと思う。そうすれば、再稼働についても国民の反応が変わってくるだろう。国民は、先がどうなるか分からないから、強く反発しているのだ。
同時に、責任者を決める必要がある。先にも述べたが、僕は河野氏を推している。
自民党議員たちのほとんどが、原発を推進すべきか反対すべきか、明確にしていない。実のところ、安倍首相自身もよく分かっていないのではないかと思う。
まず、政府は責任者を決めることだ。その上で方向性を定め、早急に原発問題、エネルギー計画を一歩でも前に進めるべきだ。
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