詳しくは本コラム「『金正恩体制転覆』で米中同意?の現実味」で述べたが、中国にとって、北朝鮮は面倒な国ではあるが、外交カードとしてなくてはならない存在だ。朝鮮半島が韓国に統一されたら、中国は困るというわけだ。だから中国は、アメリカが北朝鮮を攻撃することには反対している。

 しかし、中国にとって金正恩氏は悩ましい存在でもある。彼は北朝鮮と中国のパイプ役だった金正恩氏の叔父・張成沢氏を処刑してしまっただけでなく、身内であるはずの幹部たちを次から次へと処刑しているからだ。しかも14年以降、年々処刑人数が増えている。今年の1月には、粛清する側の最高幹部である金元弘国家保衛相まで解任してしまった 。その部下たちは次々と処刑されていて、金元弘氏もいつどうなるか分からない。

 北朝鮮の情報通たちによると、金正恩氏はもう相談する相手がおらず、ストレスの塊になってしまっているという。下手をすれば、内部でも金正恩氏の暗殺、あるいはクーデターが起こる可能性もある。これを一番恐れているのが、中国だ。

かつてのイラクを彷彿とされる北朝鮮

 米国や中国は、北朝鮮の政治基盤を整えるために、金正恩政権を倒して、金正男氏の長男ハンソル氏をトップに据えようとしているのではないだろうか。だからこそ、ハンソル氏は動画を公開したのだと思う。

 僕は、北朝鮮の一連の動きを見ながら、こんなことを思い出した。イラク戦争が始まる2カ月前、僕はイラクの首都バグダッドを訪問したことがある。フセイン大統領にインタビューできるという情報が入ったからだ。

 ところが、フセイン氏側は「あなたの行動はCIAが全部キャッチしていて、フセイン氏と会った瞬間に爆撃される。だから、残念ながら会わせることができない。その代わり、ラマダン副大統領とアジズ副首相に会わせる」と言ってきた。

 僕は、ラマダン副大統領とアジズ副首相と会うことにした。そこでラマダン副大統領が印象深いことを言った。

 「アメリカは、我々が大量破壊兵器(核兵器)を持っているとか、アルカイダと深い関係があると主張して攻撃しようとしている。おそらく、本当に攻めてくるだろう。なぜならば、我々が大量破壊兵器を持っていないことをアメリカは分かっているからだ。もし、我々が本当に大量破壊兵器を持っていたら、アメリカは攻撃しないだろう」

 実際に、この2カ月後にイラク戦争が始まった。

 北朝鮮はまさに今、アメリカにいつでもミサイルを撃てる国になりつつある。そこでアメリカはどうするのか。もし、北朝鮮がICBMの開発に成功すれば、その瞬間にアメリカは、金正恩氏を亡き者にしようとするだろう。

 ただ、この計画はそう簡単には実現できない。ハンソル氏は、朝鮮労働党の一員ではなく、北朝鮮の上層部が受け入れるかどうかは分からない。いずれにしても、時間はかかる。ただ、幹部たちも「身内の粛清」を繰り返す金正恩氏に対しては危機感を募らせていることから、受け入れる可能性はあるだろう。