安倍・トランプ会談では、農産物の自由化を迫られる可能性がある

 アメリカ人の本音が噴出した最大の理由は、グローバリズムの矛盾があまりにも大きくなりすぎてしまったことだ。

 アメリカの工場がメキシコや中国などの海外へ向けてどんどん出て行き、アメリカ人が職を失い、賃金が下がり、不満が高まった。一方、グローバリズムで伸びた金融業は拡大していった。国内の格差は大きく広がり、国民の不満をますます膨張させた。

 しかし、本音やポピュリズムが必ずしも「正しい」とは限らない。本音を貫き続けても、いずれはうまくいかなくなる時が訪れる。

 僕は、滋賀県彦根市に生まれた、近江商人の末裔だ。近江商人には「三方良し」という概念がある。これは「お客さんに信用される」「社会から信用される」「自分の商売がうまくいく」とい3つの「良し」を意味した言葉だ。

 自分の商売がうまくいくためには、自分だけが得をしようと思ったらダメなのだ。トランプ氏は、お客さんである輸出相手国に信用されなければならないし、世界からも信用されなければならない。それらが実現して、初めてアメリカはうまくやっていけるのだ。

 トランプ氏がやっていることは、今のところ「自分の商売がうまくいく」ことしか考えていないと見える。だが、これではいずれ頭打ちになるだろう。自分だけが得をしようなどという考え方は、世の中では通用しない。

 今後、トランプ氏がどういった舵取りをしていくのだろうか。そこを見極めるためにも、10日の安倍・トランプ会談は大きな注目点だ。

 僕は、トランプ氏から出る話題の中心は経済だと思う。中でも、中心になるのは農業ではないだろうか。アメリカは農業の大輸出国だ。もし、日米の間で自由貿易協定(FTA)の交渉をするとなると、アメリカは農業分野の譲歩を迫ってくる可能性がある。自動車より農業が心配だ。

 日本は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉を進めている時に、コメやサトウなど重要5品目を中心に農業を守った。安倍首相は、頑なに自由化を認めなかった。しかし、もし日米でFTAの交渉を進めるとなると、アメリカから農業について相当厳しい条件を突きつけられるのではないか。ここで、安倍首相がどこまで「NO」と言えるか問われるだろう。

辺野古への基地移転は無理だ

 今月3日に訪日したジェームズ・マティス国防長官の発言にも触れておきたい。僕が注目したのは、沖縄問題だ。マティス氏は辺野古への新基地建設について、安倍首相に「2つの案がある。1に辺野古、2に辺野古だ」と断言した。

 しかし、本当に辺野古への移転は実現できるのだろうか。僕は無理だと思う。沖縄がほとんど全島一丸となって反対しているところに基地をつくることは、まず不可能ではないだろうか。そもそも民主的ではない。

 日本政府としては、マティス氏に言われたことで、「辺野古への移転を後押しされてよかった」と思っているだろう。もちろん、多くの沖縄の人たちは「冗談じゃない」と感じている。今の政府と沖縄との対立が、かつての60年安保闘争と重なる。当時、デモに参加していた東大生の樺美智子さんが警官隊と衝突して亡くなるという事件があり、それによって安保闘争が終わった。

 もし、政府と沖縄の反対運動をしている人たちとの対立が深まれば、同じ事態が繰り返されない。要するに、運動している側に衝突による死者が出るかもしれないということだ。そうなれば、普天間の移転どころではなくなる。

 トランプ氏は「米国は世界の警察を辞める」と言っていた。普天間基地に駐在している米軍は、海兵隊だ。海兵隊とは、攻める時に最初に乗り込んでいく部隊だ。彼の発言をそのまま受け止めるならば、沖縄に海兵隊を置く必要などないのではないか。

 ところが、アメリカは防衛費を削減するのではなく、むしろ増やし、陸軍・空軍・海軍も増強すると発表した。「他の国家が、我々を軍事力で上回ることを許すことはできない」とまで言っている。これはどういうことなのか。

 建前でなく本音を貫くトランプ氏。だが、発言や考えに矛盾が出始めている。本音主義はどこまで続けられるのだろうか。その限界も近いのではないかと僕は考える。