トランプ大統領は最高裁判事に保守系のニール・ゴーサッチ氏(写真左)を指名。(写真:AP/アフロ)

 米国のドナルド・トランプ大統領が毎日のように過激な発言を繰り返し、日本のテレビ・新聞はその話題で持ちきりになっている。番組の中身はほとんどが批判的なものだ。テレビでトランプ大統領を批判すると、視聴率が伸びる。新聞の1面トップも、関連する記事が占めている。今は、テレビも新聞もトランプ大統領で稼いでいると言える。マスコミの本心としては、彼に対してありがたいと思っているだろう。

 その典型例が、米新聞大手のニューヨーク・タイムズだ。同紙はトランプ大統領から名指しで批判され、猛烈に反論している。同社のマーク・トンプソンCEOは、「(2016年度の)第4四半期には、新規で20万件以上のデジタル専用購読を達成した」と述べている。トランプ効果あってのことだろう。

 バラク・オバマ前大統領の時は、ニューヨーク・タイムズもワシントン・ポストもどんどん部数が落ちていた。アメリカのマスメディアは、オバマ氏に対して「歓迎」の立場を取っていたから、オバマ氏とマスコミの間で喧嘩をすることはなかった。ただ、それでは話題にならなかったのだ。

 ところがトランプ氏が大統領に就任すると、トランプ氏とマスコミが対決する構図になった。それが世界中の注目を集め、部数増に繋がったのだ。これは興味深い現象だと思う。

トランプ大統領の言動は、「暴走」ではない

 イスラム圏7カ国からの入国を禁止した大統領令に対して、ワシントン州とミネソタ州は違憲だと訴え、ワシントン州の連邦地裁が2月3日、全米を対象に大統領令の差し止めを命じた。日本の新聞は「混乱」「泥沼化」などと報じたが、混乱ではないと僕は思う。むしろ、アメリカはさすが民主主義の国だと思った。もし日本であれば、首相が決めたことに対して地裁が即座に差し止めを命ずることなどないのではないか。

 さらに面白いのは、トランプ氏は「この命令は不服だ」として連邦控訴裁判所に控訴したわけだが、今度は控訴裁が直ちに「控訴を受け付けない」という判断を下したことだ。これは混乱でも泥沼化でもなく、アメリカが健全な民主主義の立法・司法・行政がそれぞれ独立しているということを見事に示した事例だ。むしろ、これを「混乱」と表現する日本のジャーナリズムの方がおかしい。

 トランプ氏の言動は過激に見えるが、僕は「暴走」ではないと思う。イスラム圏からの入国禁止という大統領令の是非について、ロイター通信が全米50州で実施した世論調査によると、賛成が49%、反対が41%になったという。世界中から批判が集まっているものの、アメリカ人の本音としては賛成なのだ。

 トランプ氏は、アメリカ国民の本音が賛成だと分かっているから、マスコミと喧嘩をしながら強気に出ている。決して国民の意に反してやっているわけではない。そういう意味では、暴走ではないと僕は思う。

 一方、オバマ氏はアメリカ人の「良心」だった。もっと言えば「建前」の象徴だった。「世界と仲良くしなければならない」「戦争をやってはいけない」「核兵器はなくすべきだ」という建前を並べていたが、実際はほとんど実現できなかった。

 対してトランプ氏は、アメリカ人の本音によって選ばれた大統領だと言える。「アメリカ第一主義」「アメリカが良ければ、世界はどうなってもいい」。これが本音なのだ。人間は誰であれ、本音は自分が得をしたいと考えている。本音では、人のために尽くさなければならないなんて思っていないだろう。

 そもそも政治家は、ほとんど本音を言うことはない。いつの時代もそうだ。僕は多くの政治家を取材してきたが、トランプ氏ほど本音を語る政治家はいなかった。逆を言えば、本音を言いすぎる人は「出る杭」として打たれ、出世街道を上っていけない。これは政治の世界だけではなく、会社などの組織の中でも同じだろう。それを考えるとトランプ氏は稀有なリーダーと言える。彼への対応も簡単ではない。