そもそも、アメリカから工場が出て行ったのはなぜなのか。答えは単純だ。アメリカ人の給料が他国より高いからだ。ワーカーレベルであれば、メキシコ人の給料はアメリカ人の8分の1程度だという。中国人の給料も、アメリカ人よりはるかに安い。

 中国やメキシコの人件費が安いから、アメリカの工場は海外に出て行って、安いコストで製品を作ることができた。これがアメリカに輸出されていたのだ。

 こういった背景があるにも関わらず、「アメリカの工場を取り戻す」とはどういうことなのだろうか。取り戻したところで、給料の高いアメリカ人を雇ったら、製造コストがかさんで価格が高くなり、売れなくなってしまうのではないか。

 サンフランシスコやロサンゼルス、シアトルなどの都市で、段階的に最低賃金を時給15ドル(約1700円)にまで引き上げる条例を可決する自治体が出始めている。企業の規模や業態、あるいは自治体によって適用する企業は異なるが、いずれにせよコストの上昇分は製品やサービスの価格に上乗せせざるを得ないだろう。そうなると、海外からの輸入品との価格差はさらに大きくなる。トランプ大統領の目指す「理想の米国像」は分かるが、実現できるとは到底思えない。

アメリカの問題は、「製造業」と「金融業」の内部対立だ

 アメリカには2つの大きな産業がある。1つは製造業。こちらは工場がどんどん海外に出て行ってしまって失業者が増え、大きな問題になっている。

 もう1つは金融業だ。ウォールストリートを中心にした金融は、非常に好調である。しかし、金融業で儲かっているのは一部のアメリカ人だ。まさにそれは、トランプ大統領の言うニューヨークだろう。

 つまり、根本的な問題は中国や日本、メキシコといった外国との貿易というよりも、米国内の製造業と金融業の内部対立だということだ。

 保護主義にすればどちらも好調になるというものではない。金融はグローバリズムによって発展してきたものだからだ。

 こういった矛盾もある。製造業はドル安であるほど輸出には好都合で、利益が増える。ところが金融業はドル高の方が株や債券などの資産価格を押し上げるメリットがある。トランプ氏が製造業を優先することで、米国の金融業にマイナスの影響を与えるとすると、これが世界全体に広がっていくだろう。

 トランプ大統領はこの内部対立について、きちんと分析できているのだろうか。

次ページ アメリカの歴代大統領は、製造業復活に失敗し続けてきた