韓国国内で反日感情が根強く残る中、なぜ金大中大統領は実現できたのか。それは、思いきった外交戦略に出ても支持率を落とさないという自信があったからだ。

 一方で文大統領は、韓国国民に対して全く自信がない。だから、もし、日韓合意に賛成すれば、支持率が大幅に落ち、辞任に追い込まれると強く恐れているのである。

玉虫色の結論を出した文大統領の本音は「自信がない」

 ところが、一つの矛盾がある。文大統領は、選挙期間中は日韓合意の再交渉を要求していたが、今回は「日本に再交渉を要求しない」と発言したのである。

 要するに、日韓合意に対する否定的な発言は、日本に圧力をかけるためではなく、一種のポピュリズムだと言える。あくまでも、日韓関係は維持したいということだ。韓国国民と日本、そして自分の立場を考慮した上での精一杯の発言だったのではないだろうか。

 昨年6月、自民党の二階俊博幹事長が韓国を訪問し、文大統領と会談した。その時、二階氏が「慰安婦問題は、少し脇に置いて日韓の連携に注力しよう」と言ったら、文大統領は非常に喜び、様々なことを頼んできたという。

 韓国は、日本の経済協力がなければやっていけない。逼迫する北朝鮮問題についても、日本との連携が必要である。文大統領は、日韓関係の重要性を百も承知だというわけだ。しかし、彼は国民に対する自信があまりにもないから、日韓合意を否定せざるを得ない。

 僕は、この10年で韓国を2度訪問した。そこで、与党議員や野党議員たちと何人も話をしたが、皆一様に「我々は日本を見習って、政治をしている」と述べた。

 さらに、彼らは続けた。「しかし田原さん。申し訳ないが、国民の前ではそういう発言はできない」。

 韓国では、子どもたちに「愛国心」を教える時に、日韓併合時に韓国民がいかに勇敢に戦ったかという話をするという。だから、文在寅をはじめとする韓国の政治家たちは、日本との関係が重要だと分かっていても、堂々と言えないのである。

 そういった背景を考えると、文大統領の「再交渉はしない」という発言は、日韓関係を悪化させようとしているのではなく、日本と協力していきたいという精一杯のメッセージであったのではないだろうか。

日本人には、元々嫌韓・反中感情が強く根付いていた

 日本にも、根強い嫌韓感情がある。反中感情はそれ以上に強い。韓国や中国を強く批判する雑誌や書籍は、どうも売れ行きがいいようだ。

 戦争を知る最後の世代として、僕は嫌韓・反中感情がエスカレートしていくことに強い懸念を抱いている。

 1931年、満州事変という出来事があった。日本の満州駐屯軍、いわゆる関東軍が南満州鉄道を爆破し、その罪を中国軍にかぶせて、満州の大部分を占領してしまったのである。

 どう考えてもおかしな話だが、当時の日本の各新聞はこれに大賛成し、国民も賛同した。

 さらには、今もなお日韓関係の禍根となっている1910年の日韓併合についても、日本ではマスコミも国民も大賛成していた。