上海でFCV普及計画が進む背景

 国有三大自動車メーカーの一つで、フォルクスワーゲンやゼネラル・モーターズなどと提携を結んでいる上海汽車がある上海市は、中国国内でも有数の自動車生産都市である。国家統計局の統計によると、2016年の年間自動車生産台数は、上海市では261万台と、広東省の280万台、重慶市の266万台に次いで第三位となっている(図1)。

図1.2016年における都市別自動車生産台数
出所:中国国家統計局のデータより筆者作成

 だが、新エネ車ではこの構造は大きく異なる。新エネ車の都市別生産台数に関する公式統計はないため、中国の金融調査会社「WIND資訊」がまとめている車種別の主要新エネ車生産データを基に、2016年における本社の所在地別生産台数を著者が独自に計算した(図2)。

図2.2016年における都市別新エネ車生産台数
出所:WIND資訊のデータより筆者作成

 これによると、中国の新エネ車最大手の比亜迪(BYD)がある広東省が圧倒的な一位となっているのに対し、上海は第六位にとどまっている。またその構造も、PHVに偏っており、EVの乗用車はほとんど生産されていない。つまり、中国有数の自動車生産地である上海は、新エネ車では大きく出遅れているのである。

 日本では異なる地方自治体の役人同士が競い合うことは考えにくいが、地方が中央への出世の登竜門となっている中国では、地方政府での業績が役人の将来を左右する。中国政府が重視する環境汚染を緩和すると同時に、経済成長にも資する新エネ車産業の発展は、彼らにとって絶好のアピールの機会といえる。

 また同計画によると、上海にある水素エネルギー及びFCVの研究開発や製造に関わる企業は30社に達しており、燃料電池車産業のサプライチェーンがある程度出来上がっているという。実際に、EVでは後塵を拝している上海汽車も早くからFCVの研究開発を進めており、「栄威950(Roewe950)」のFCVを発表している。産学官連携も進んでおり、水素エネルギーの研究を進めている理工系国家重点大学の同済大学(上海市)も、2007年の上海初となる水素ステーションの建設に携わっている。

 もう一つ考えられるのが、全国的にガソリンスタンドを展開している国有石油大手企業による推進である。マンションの駐車場などの充電スタンドで簡単に充電できるEVの普及はガソリンスタンド事業に大きな影響をもたらす。一方、FCVの普及で需要が高まる水素ステーションは、既存のガソリンスタンドからの転用が可能だ。事実、国有石油大手の中国石油化工集団と中国石油天然気集団はすでに水素ステーションの建設に向けて動き出している、と中国のメディアでは報じられている。

 官民を挙げて積極的にFCVを推進し始めた上海だが、FCVを開発販売しているトヨタやホンダといった外資系メーカーが参入しやすい環境も兼ね備える。それが上海自由貿易試験区だ。