
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーⅡ』で描かれた30年後の未来を現実に迎えた2015年10月21日、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」が米国で発売された。主人公マーティ役のマイケル・J・フォックスと天才科学者ドク役のクリストファー・ロイドを起用したプロモーションビデオは、「YouTube」の再生回数が数百万回を超えるなど、注目の高さをうかがわせた。
そのFCVに今、激しい逆風が吹いている。世界各国で新エネルギー車(新エネ車)を推進する規制が相次ぐ中、世界の主要自動車メーカーがFCVではなく、電気自動車(EV)へとシフトしているからだ。
2016年に米国を超え、世界一の新エネ車市場へと躍進した中国においても、その動きが鮮明となっている。中国自動車工業協会の統計によると、2016年の新エネ車販売台数は50.7万台で、その内訳はEVが8割、プラグインハイブリッド車(PHV)が2割となっている。一方、中国国内で販売実績がほとんどないFCVは統計データすら存在しない。
今年に入り外資系自動車メーカー各社も、中国国内における新エネルギー車の生産・販売の計画を矢継ぎ早に発表しているが、その中心はEV、PHVだ。グループ全体の売上高の約4割を中国で稼いでいる独フォルクスワーゲン(VW)は2025年に中国で150万台のEVを販売する目標を掲げた。
米ゼネラル・モーターズ(GM)は2020年までに新エネ車を10車種投入予定で、2025年までに年間販売数50万台を目標に掲げている。ルノー・日産アライアンスも東風汽車と合弁会社を新設し、中国市場向けにEVの共同開発を行う計画である。
EV一色に染まっているように見える中国であるが、個別の都市に目を向けると異なる様相が見られる。例えば、上海市で進むFCV普及計画だ。
「上海市燃料電池車発展計画」の概要
2017年9月20日、上海市発展改革委員会、上海市科学技術委員会、上海市経済・情報化委員会が連名で「上海市燃料電池車発展計画」を発表し、短期、中期、長期の具体的数値目標が明らかとなった。
短期(2017-2020年)目標では、FCVのバスやトラックのテスト普及を積極的に推進し、水素ステーションを5~10か所、FCV乗用車模範エリアを2カ所建設し、FCV普及台数を3000台にする。また、FCV関連企業を100社以上集積させ、水素エネルギー・燃料電池技術の研究開発センターとFCVテストセンターをそれぞれ1カ所ずつ設け、関連産業で年間生産額150億元(約2500億円)以上を目指す。
中期(2021-25年)目標では、水素ステーションを50カ所建設し、FCV乗用車を2万台以上、バスやトラックなどの特殊車両を1万台以上にする。また、国際的に影響力のある完成車メーカーを1社、動力系統企業を2~3社、コア部品企業を8~10社育て、世界トップ3に入る研究開発および公共サービス機関を2社にし、関連産業で年間生産額1000億元(1兆7000億円)以上を目指す。
長期(2026-30年)目標では、上海を国際的に影響力のあるFCV都市にまで育て上げ、中国全土のFCV産業の高度成長をリードする。また、関連産業の年間生産額を3000億元(5兆1000億円)以上にまで高め、全国の燃料電池商品の多様化を目指す。
野心的な目標であるが、上海は達成に向けて動き始めている。
全世界的なEVシフトが起こる中、上海はなぜFCVの普及を積極的に推進しようとしているのであろうか。その理由の一つとして、上海市政府および関連企業の思惑が一致し、官民挙げた取り組みにまで発展したのではないかと考えられる。
[コメント投稿]記事対する自分の意見を書き込もう
記事の内容やRaiseの議論に対して、意見や見解をコメントとして書き込むことができます。記事の下部に表示されるコメント欄に書き込むとすぐに自分のコメントが表示されます。コメントに対して「返信」したり、「いいね」したりすることもできます。 詳細を読む