
キャッシュレス化の急速な進展に伴い、北京の銀行ではあまり人をみかけなくなった。以前は人でごった返していた銀行窓口やATMが今では閑散としている。
その背景にあるのがオンライン決済の急拡大だ。「タオバオ」に代表されるネットショッピングに加え、フードデリバリーやシェア自転車、無人カラオケといった新しいビジネスの台頭が著しく、都市部における消費スタイルが大きく変化している。
中でもモバイル決済の成長が目覚ましい。インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)が「微信支付(ウィーチャットペイ)」で本格参入した2014年以降、モバイル決済市場は右肩上がりで急成長を続けている。中国人民銀行(中央銀行)の統計によると、2015年における中国全体の非現金決済額は前年比90%増で、その内モバイル決済額だけを見ると実に4.8倍であった。
北京市内にあるレストランやスーパー、道端の屋台ですらモバイル決済が使えないところは皆無に等しく、友人同士の金銭のやり取りも全てスマートフォン(スマホ)で済ませることができる。さらに、多くのレストランやお店の会員カードは電子化されスマホに登録されているため、財布そのものを携帯する必要がない。
私も最近ではほとんど現金を持ち歩くことがなく、半年以上前にATMで引き出した現金の多くが未だに財布の中で眠っている。事実、中国人民銀行の統計によると、ATMでの年間出金額も14年の74.4兆元をピークに右肩下がりを続け、17年には65.1兆元まで減少している。
急変するマネー構造
キャッシュレスが進行したことで、市中を流通するマネーの構造にも変化が表れている。
中国におけるマネーサプライ統計のM1は、流通している現金通貨と預金通貨で構成されている。現金通貨と預金通貨の伸び率は14年まではほぼ同様の比率で増加を続けてきたが、モバイル決済ツールが爆発的に普及し始めた15年から乖離が見られ始めた。
具体的には、2015年~17年(年末)における現金通貨と預金通貨の年平均増加率はそれぞれ、5.5%と18.1%となっている。それに伴い、M1に占める現金通貨の割合も2014年末の17.3%から2017年末には12.9%まで低下した。

モバイル決済ツールを使って支払うと、指定の銀行口座から直接引き落とされる。また、中国でカード決済といえばクレジットカードではなく、その場で銀行口座から引き落とされるデビットカードが主流となっている。このため、キャッシュレスが進むと現金流通が減り預金残高が増えるのは自然な流れである。
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