私たちはコンペに備え、スタッフたちと案を練った。だが、打ち合わせ時にも、誰もが社名をなかなか覚えられず、「何という名前だっけ?」と、ひっきりなしに聞いてきた。「アフラック、アフラック……何度言えばわかるの?」と、私は答え続けた。

 ある日、エリック・デービッドというアートディレクターが、「もう一度言ってくれる?」と言ってきた。私が答え始めると、彼は私の鼻をつまみ、「まるで、アヒルが泣いているみたいだ」と笑い出した。そこで、ハタとひらめいたのだ。「これなら、みんなに覚えてもらえる!」と。

 そして、公園のベンチで保険の話をしている2人の男性と、保険会社のセールスマンに見立てたアヒルを登場させるというアイデアにまとまった。男性の一方が保険会社の名前を覚えられないのだが、近寄ってきたアヒルが「アフラック」と連呼し続けるという設定だ。

 それから2年もたたないうちに、同社の知名度は3%から96%に跳ね上がった。アフラックにとっても私たちの会社にとっても、奇跡的な成果だった。

 私は仕事を受注すると、アシスタントからグラフィックデザイナーまで、全員に祝意を表すよう心がけていた。「私が、僕が、いなかったら、仕事は受注できなかった」と、一人ひとりの社員に、心のなかでひそかに思ってもらうためだ。上司が部下に一生懸命働いてもらいたいなら、「自分たちが原動力となり会社を動かしている」と部下が思えるようにすべきだ。

部下の声をしっかり聴く

 偉大な企業経営者のなかには、講演の際、決して“I”(アイ=私)という一人称を使わない人もいる。そうした経営者は、ミーティングでも、いちばん静かで控えめだ。つまり、「私はあなた方に勝っているわけではない。皆さんの言葉に耳を傾けていますよ」という姿勢を示しているわけだ。

 優れたリーダーは、人一倍、社員の声を聴こうとする。素晴らしいアイデアは往々にして、肩書にかかわらず、どのレベルの社員からも出てくるものだからだ。社員の地位にとらわれてはいけない。

 私たちの広告代理店のクライアントだったあるレストランで、食器が割れやすく、買い換えによるコスト負担が大きいことが問題になったことがある。

 ある日、最高経営責任者(CEO)や役員、マネジャーが集まり、レストランでミーティングを開いていたときのことだ。一人のウエイターが入ってきて、一つ提案していいかとCEOに尋ね、発言の機会を与えられた。すると、ウエイターは「自動食器洗浄機の震動が激しすぎるのが原因だと思う。だから、食器がすぐに割れてしまう」と言ったのだ。おかげで、レストランは自動食器洗浄機を買い替え、コストを大幅に削ることができた。

 それを機に、このレストランではアイデアの報奨金制度を設け、そのアイデアがコスト削減につながった場合、コスト削減金額の10%を社員に還元することにした。それにより、前出のウエイターは、多額の報奨金を手にした。自分の意見が取り入れられ、自分も会社に貢献できると思えば、社員は一生懸命働く。社員を肩書でなく、貢献度で見るべきだ。

 社員のグリットを高めるには、まず、人が会社を辞める最大の理由はお金ではない、ということを理解することだ。自分が尊重されていると思えなかったり、直属の上司(CEOではない)が感謝の言葉をかけてくれなかったり、功績が認められなかったりすると、社員はやる気を失い、それが重なると辞めていく。