あえて居心地の悪い状況をつくる

 あえて居心地の悪い状況をつくり、安全地帯から抜け出そう。目をつぶって(あるいは片手で)服を着る。レストランで食べたことがないメニューを注文する。エレベーターで見知らぬ人に挨拶する。そんなふうに筋肉をほぐしておけば、居心地の悪い状況にも耐えられる。研究によれば、脳は新しもの好きであり、慣れ親しんでいないことをすると神経活動に好影響がある。神経が研ぎ澄まされ、創造性が高まる。そして、グリットも培われる。

 逆にグリットにとって良くないことは何か。たとえば、夢を見て、夢の中に生きることだ。夢の中のあなたは常に成功を収め、賞や金メダルを取っていることだろう。だが、グリットを高めたいなら夢は禁物だ。第3章「夢を捨て去れ」でも書いたが、米化粧品メーカー大手エスティローダーの共同経営者だったエスティ・ローダーは、こんな明言を残している。「成功を夢見たことなどない。成功のために努力はしたが」。この言葉を思い出すたびに、私は感動でゾクゾクする。

 私が広告代理店で新人として働いていたとき、ジムという上司がおり、15年以上にわたって彼の下で働いた。当時、ジムは作家を目指していた。だが、彼は、単に夢を見るのでなく、幹部としての仕事のかたわら毎朝4時に起き、4時間、原稿を書いてから出社するという驚くべき毎日を送った。

 ある日、出張で彼と飛行機に乗ったときのことだ。彼は40代前半だったが、突然、こう言ったのだ。「ついにわかったぞ! ベストセラーの書き方が。21年もかかってしまったがね」。それが、サスペンス小説『刑事アレックス・クロス』シリーズの1作目、『多重人格殺人者』(Along Came a Spider)の誕生だった。

 ジムのフルネームは、ジェイムズ・パタースン。今やナンバーワンの売れっ子フィクション作家だ。彼は「俺は偉大な小説家になる」などと夢を語ることはなかった。毎朝4時に起きているのを知ったのも、彼と知り合ってから何年もたってからだ。

 はたから見れば、一夜にして成功したように見えるかもしれないが、実際のところ、『多重人格殺人者』は13作目くらいだった。成功の陰には数多くの失敗が隠れているものだ。

(一部敬称略、次回に続く)

※本原稿は著者の了解を得て、一部、書籍『GRIT』から引用しています

『GRIT(グリット) 平凡でも一流になれる「やり抜く力」』
(リンダ・キャプラン・セイラー、ロビン・コヴァル著、三木俊哉訳、1620円)

 GRIT(グリット)は、いま米国で最も注目されている「成功のためのキーワード」で、「やり抜く力」を意味します。「真の成功」をつかむための最重要ファクターは、生まれながらの才能やIQではなく、GRIT(グリット)であることが科学的にもわかってきています(むしろ「IQの高い人は、自分を過信し、努力を怠る」)。しかも、GRITの素晴らしいところは、生まれつきのものではなく、学習によって獲得できることです。しかも、年齢は関係ありません。いつでも誰でも、GRITを身につけることができます。本書は、豊富な実例をもとに、GRIT(グリット)の身に付け方を手ほどきします。