拒絶されても動じなくなる訓練

 著書『GRIT』のなかで、グリットの養成法を数多く紹介している。なかでも第4章で挙げた「リジェクションセラピー」は、ユニークなものだ。リジェクションセラピーとは、「拒絶」されることに慣れることを目指した心理療法のこと。断られるのが好きな人はいないが、拒まれる習慣をつけることがグリットを養う。

 催眠術師のジェイソン・カムリーは何年か前に「リジェクションセラピー」というオンラインゲームを考案した。カムリーのゲームに感銘を受けた中国系移民のジア・ジアンは、100日間の拒絶に耐えることで、拒絶される痛みに鈍感になることを決意し、その様子を隠しカメラで撮影してユーチューブに投稿し、すぐにポイントを稼げるようになった。コストコには、店内放送でしゃべらせてほしいと頼んで断られた。見知らぬ人に100ドル貸してほしいと言うと拒否された。フェデックスは北極のサンタクロースに荷物を送ってくれなかった。

 「ところがあるとき、おもしろいことが起こりました」とジアンは報告する。「イエスという反応が出てきたのです」。見知らぬ家の裏庭でサッカーをすることを許されたり、ビルの警備員に頼んで防犯カメラに向かって「江南スタイル」を踊らせてもらったり。行き当たりばったりで会社の建物に入り、CEOに会わせてほしいと頼んだこともあった。「なぜ?」と受付係は知りたがった。

 「彼とにらめっこをしたいんです」と答えると、CEOの部屋へ通された(このCEOは女性で、にらめっこは彼女の勝ちだった)。

 拒絶のおかげでコミュニケーションや交渉が上手になったことをジアンは発見した。そして、拒絶されたときにいつも感じていた痛みは爽快な解放感に取って代わり、彼はさらに大きなリスクをとるようになった。

 あるとき、クリスピー・クリーム・ドーナツの店にふらっと入り、オリンピックの5つの輪に似せたドーナツを特別に注文すると、愛想のいい従業員が「お待ちください」と言って奥へ引っ込み、まもなく自分の「作品」を誇らしげに持って現れた。オリンピックカラーの5つのドーナツが互いにつながり、箱に収まっている。「いくらですか」とジアンが訊くと、彼女はにやりと笑って「私のおごり。けっこうです」と言った。

 この出会いを隠し撮りした動画はユーチューブで大人気になり、マスコミにも取り上げられ、ジアンは人気者になった。

 ずっと拒絶されつづけるのは大変な経験だろう。しかしそれは、自分でもできるとは思わなかったハードワークに挑むために必要な刺激でもあるのかもしれない。