静かな有田の町並み

 日本の美しい景色や魅力的な文化は、その地域にある伝統産業が作り出していることが少なくありません。もし、伝統産業がすたれてしまえばその分、地域の魅力は地域からなくなります。それだけでなく、その地で働く人がいなくなれば街の過疎化も進むでしょう。それはユニークな観光資源も失うことにもつながります。

 私は数年前まで、長野県の軽井沢町発祥で宿泊施設を全国で運営する星野リゾートで広報業務やブランドの立ち上げに携わってきました。星野リゾートはホテルと同時に旅館を多数手がけており、ここでの仕事を通じて「日本の和」について、マーケティングの経験を積みました。また、星野リゾートでの仕事を通じて、「日本の魅力は地域にある」という確信を持つようになってもいました。

 同社を離れた私は現在、マーケッターとしての自分の知識や経験を伝統産業に生かせないかと考え、各地を歩き回っています。

400年の歴史を持ち、知名度は高い

 「有田焼のブランディングをやりませんか?」。そんな誘いを受けたのは2014年初夏のことでした。

 声をかけていただいたのは、地域のモノづくりの継承と発展のために全国で活動されている東京在住の経営者。佐賀県の有⽥焼400年プロジェクトの一つを担っており、私の役割はプロジェクトリーダーとしてデザイナーや生産管理のプロと窯元のブランディングを行い、随時、この経営者の指導を仰ぎながら佐賀県に報告するという仕事です。

 佐賀県の有田町周辺を産地とする有田焼は、日本で最も知られる焼物の一つといっていいでしょう。400年を超える伝統を持ち、品質の高さには定評があります。

有田は日本有数の磁器の産地

 伝統工芸は各地で苦戦が伝えられますが、それでも「さすがに有田焼ほど知名度が高ければ、大丈夫だろう」と思う人がいるかもしれません。実は私もそう思っていました。

 星野リゾートが軽井沢から全国展開に踏み出したのに対し、有田焼は日本有数の磁器の産地であり、既に全国的なブランドになっています。知名度は高く当初は正直なところ、「ブランディングと言っても、すべきことは限られていそう。月に1~2回、1泊2泊で有田に通う程度で進めていけばいいか」くらいに思っていました。

 しかし、そんな考えは現地を訪問して1日目にあっさり崩れました。