自分で調理しなくても、市販されている介護食品を利用する手がある。レトルト状になっていて、そのまま食卓に出せる加工品だ。

 現在、介護食として市販されている主なものは…

・消費者庁が許可した特別用途食品の一つ「えん下困難者用食品」
・日本介護食品協議会規格で食品メーカーが製造販売している「ユニバーサルデザインフード」
・農林水産省規格で食品メーカーが製造販売する「スマイルケア食」

 などだ。

 でも、これらの市販の介護食品の8割は医療機関や福祉施設等への業務向け。残り2割のほとんどが通信販売用で、店頭売りされているものはごくわずかしかない(出典:農林水産省食料産業局「介護食品をめぐる事情について」平成25年3月)。

 流通量が少ないために、家族の状態に合うものを見つけるのが難しく、通信販売で買ってみたら噛めなかった、飲み込めなかったということもある。そして何と言っても味の好みはいかんともしがたい。いくつか試したが、アキオに「おいしくない」と言われて却下。

 もちろん、自分でも食べてみました。

 「すみません、お作りになった方は、ご自身で一度でも召し上がったことがあるのでしょうか?」

 …というのは、わたしの心の声です。お聞き苦しくてすみません。

まずいものを食べさせたい人がいるわけないのに

 プロセスチーズはともかく(まだ言うか)、誰だって、まずいものを作りたくて作るわけはない。

 今の「介護食」を巡る状況は、時間、コストなどの事情から、「味」をとやかく言う贅沢は許されていない、というのが素直な解釈だろう。

 それはわたしにもわかる。

 「病気と戦って復帰しようとしているんだから、味をとやかく言わずに食べるべきでは?」

 それも分かる。べき論としてはまったく正しい。
 だから、介護を受けている方、されている方が「味をとやかく言うべきではない」という意見をお持ちならば、それは全然否定しない。

 一方で「おいしい介護食」は必要だし、メリットも大きいとわたしは思う。

 すっかり痩せてしまった今のアキオにとって、食事は体力を回復させるたった一つの拠り所だ。そのためには食欲は大きな大きな意味を持つ。

 別に大ごちそうを毎食ふるまえるような環境を整えてほしい、とは言わない(してあげたいけど♪)。

 でも、食欲をそそり、かつ調理も簡単な食材やレシピを広めることができれば、回復も早まるし、食べさせるほうのストレスも減るし、それが結局は社会保障費削減にだってつながるんじゃないの?

 とはいえ、そんな大きな話はどうでもいい。
 わたしはアキオがおいしく食事ができればそれでいいのだ。

「わたしも料理研究家の端くれなんだ。こうなったら、自分で考えるしかない」

 そして、アキオを絶対に元気にして、彼が愛する職場に戻してみせる。
 その思いで、沈む夕日に拳を握りしめるわたしだった。

 …しかし、これがまた、言うは易くで。
 まさしく「愛が試される」修羅場がわたしを待っていたのでした。

(次回に続く)

 前回「バカップル夫婦、ガンに直面す」に、アキオの病気の基本情報を公開してほしいとのコメントをいただきました。

 この件について、お答えしたいと思います。

 アキオが肺がんだとわかったのは彼が52歳の時でした。それもその診断を聞いたのは、私の50歳の誕生日の前日。驚きの余り、血の気が引いたのを今でも覚えています。

 その翌年には口腔底がん、そのまた翌年に食道がんと、よくもまあ立て続けに驚かせてくれて、私の寿命は確実に短くなりました。

 病気と闘うには敵を知らねばと、医学書を何冊も買い、勉強をしました。ネットからも病気に関する有益な情報を得ようと血眼になって探しました。

 そうした経験もあり、アキオの病状や病期、治療の内容やその効果など、ご参考になるのであれば、詳しくお話をさせていただきたい気持ちはあります。

 ただ、それをお知らせすることで、読者の皆様の中に傷つく方がいらっしゃるのではないかと心配になります。ご自分やご家族のご病気とアキオの状態とを照らし合わせて、これは望みがないのだと悲観なさるようなことがあっては決してならないと思うのです。

 ですので、このことについては、もう少し考えるお時間を頂戴できれば幸いです。

(クリコ 拝)

■変更履歴
記事掲載当初、本文中で「口腔低がん」としていましたが、正しくは「口腔底がん」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2016/12/14 12:00]