夫とわたしが逆の立場だったら?必要なのは「食の自立」

クリコ:いえいえ、そんな…。でもある時、「ちょっと待って、もし逆の立場だったら、夫は私に介護食を作れたかな」という疑問が浮かんだことがあります。

 夫は、飲み物を電子レンジで温めるくらいしかできないので、介護食なんて絶対に作れない。その時、やっぱり「食の自立」が大切だなと思いました。これからは男性も、基本的な献立を考えて買い物をして、料理して、洗って、という一連の作業をできるようになってほしいです。

小竹:男性の「食の自立」。そのためには、やっぱり選択肢が多くないといけないですね。情報、商品、サービス…。

クリコ:私が大変な思いをしたのは、最初にどう作ったらいいのかという情報がなかったからです。もしも情報があって、相談できる窓口もあって、スーパーやコンビニでも介護食品が購入できて、レストランでもやわらかい食事を食べられて。その上で、自宅でも作ることができる。そんな風にたくさんの選択肢があれば、自宅で、家族のための特別な食事を作ることも苦労じゃなくなると思うんです。

 実は私、「介護食」という言葉が今もしっくりきていなくて。だって夫に「あなたの介護食よ」と言って食事を出したことは一度もありません。いつもの家庭料理に、ちょっと手を加えた夫・アキオのための「アキオごはん」です。「お父さんごはん」「おばあちゃんごはん」でもいい。介護食も家庭料理の一つ、家族ごはんですよね。

小竹:なるほど。

「おいしい笑顔」が、ずっと続く未来のために

クリコ:私、自分が介護食作りを始めた時にとても困ったので、きっと、私だけではなくて、たくさんの人が困っているに違いない、と思ったんです。そういう人たちは、一体どうしているんだろうって。

 その後、自分なりに介護食作りのコツが分かってからは、もし介護食作りで困っている方がいるなら、私のレシピを役立ててほしいと自分のサイトを作ってレシピを公開しました。

 それからシニア女性向けの情報誌に取材していただいて、それがご縁で、その情報誌の読者が作っているSNSにもレシピを投稿したんです。そしたら、私のレシピを見た読者さんから、「うちの主人は市販の介護食品が大嫌いで全然食べてくれなかった。クリコさんのレシピで今夜は全部食べてくれました」とか、「寝たきりの母がクリコさんのレシピでおいしいって食べてくれました」というお便りが届いて。

 ああ、やっぱり、私だけじゃなくて、世の中には介護食作りで困っている人が大勢いらっしゃるんだな、と実感しました。

小竹:それが、今の活動につながっているんですね。

クリコ:はい。もっと、私の介護ごはんを紹介していきたいと思いました。きっと、夫も応援してくれているんじゃないかと。

 これから介護食が必要な人はまだまだ増えて、いつかは、私自身が必要になって、今までとは違うごはんを食べるようになる。そう思うと小竹さんがおっしゃるように、もっとたくさんの選択肢があって、「毎日、ずっとおいしい」が続く未来が待っているといいな、と思います。

 食べることって楽しいし、おいしいと自然と笑顔になりますよね。ごはんを見て「おいしそう!」と感じたら、それが毎日の生きる楽しみになって、食べて「おいしい!」と言ったら、きっとその時は笑顔になっている。それで、元気も湧いてくる。

 多くの皆さんに、「おいしい笑顔」がずっと続く未来があるといいな、と思います。