ガンで、噛む力に障がいを負ったご主人・アキオさんのために、妻で料理研究家のクリコさんは「食欲をそそる流動食作り」に挑み、介護食とは思えないほど「おいしそう」な料理を次々と生み出しました。その奮闘ぶりをお伝えした「ダンナが、ガンになりまして」連載が、ついに単行本化。こちらは、それを記念しましての番外連載です。

 「見た目はおいしそうだけど、そうは言っても介護食なんだから、実際食べてみたらどうなの? 作るのは難しいのでは?」という疑問にお答えするべく、料理初心者の編集Yが介護食作りに挑戦します。(助っ人編集F)

(前回「枝豆のポタージュ・後編」から読む

クリコ:今回は「ふわふわ豚シート肉のトンカツ」を作ります。

編集Y:介護食でトンカツ、というのが衝撃的でした。

助っ人F:しかも箸ですっと切れるやわらかさだなんて、初めて見た時はビックリしました。これ、ホントに介護食なの?と。

クリコさんが作った「ふわふわ豚シート肉のトンカツ」。書店さんのPOPにも使っていただく予定です!
クリコさんが作った「ふわふわ豚シート肉のトンカツ」。書店さんのPOPにも使っていただく予定です!

クリコ:はい。アキオはお肉大好き、揚げ物大好き。なのに、手術後は粗くフードプロセッサーにかけた肉料理しか食べられなくなってしまった。でも、どうにかしてトンカツを「ソレとわかる形で」食べさせてあげたかったんです。

編集Y:料理の見た目にこだわられた。誰が見ても「トンカツ」にしたかった、と。

クリコ:口の中の手術の傷が治ってきて、お肉もやわらかければ食べられるとわかり(連載「ガンで噛めない夫に、愛の『すき焼き』を♪」)、「何とかお肉をものすごくやわらかにする方法はないだろうか?」と、ずっと考えていました。

 そんな時、有名な「とんかつまい泉」のヒレかつサンドのやわらかさの秘密を思い出したんです。あのやわらかさは、「肉の繊維を徹底的に断ち切ってから、とんかつの形に作っているから」というテレビ番組を見たことがあって。それなら、もともと肉の繊維が断ち切られているひき肉に、大和芋とお豆腐を混ぜて、やわらかい肉ダネを作ったらどうか。そしてその肉ダネを薄切り肉のようなシート状に成形してみよう、と。

助っ人F:そうして生まれたのが「ふわふわシート肉」でした。

こちらは鶏ひき肉で作った「ふわふわ鶏シート肉」を加熱したもの。棒状に切って、ごまダレをかければ「ふわふわ鶏シート肉のバンバンジー」になる。
こちらは鶏ひき肉で作った「ふわふわ鶏シート肉」を加熱したもの。棒状に切って、ごまダレをかければ「ふわふわ鶏シート肉のバンバンジー」になる。

クリコ:流動状の肉ダネを、長方形のシート状にラップで包んで加熱すると、こんな形になります。一見、普通のお肉を加熱したように見えますが、ひき肉に大和芋、お豆腐を混ぜてあるので、実はとーってもやわらかいんです。

 初めは鶏肉で作りましたが、豚肉や牛豚バージョンも作りました。これを使えば、「見た目にお肉らしい料理」を作れます。こんなの↓とか!

左は「ふわふわ鶏シート肉のバンバンジー」、右は「ふわふわ牛豚シート肉の焼肉」。何度も言うけど「コレって介護食?」。おいしそう!
左は「ふわふわ鶏シート肉のバンバンジー」、右は「ふわふわ牛豚シート肉の焼肉」。何度も言うけど「コレって介護食?」。おいしそう!
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泣けて、笑えて、生きる力が湧いてくる。
充実のレシピ、ハウツーを大幅加筆!

「この連載は仕事中に読めないのが難点。泣けてくるから。」

「お互いを思いやる優しさや、いつでも楽しさや幸せを共有するお二人の話に、会社なので毎回泣くのを堪えるのが大変でした。」

「命が輝くスーパー連載、有難うございました!」

「深い悲しみを表に出さない文章に、クリコさんの素敵なお人柄を感じました。私も主人を今まで以上に大切にします。」

「本連載は確かに最終回を迎えましたが、アキオさんクリコさんの史上最強ラブラブ物語が身を結ぶのは、まだまだこれからです!」

「食べることは生きること!胸に刻みました。」

「毎回、毎回、読むたびに涙が、ちょちょぎれました。
このばか甘カップル羨まし過ぎる。」

 連載中はたくさんの暖かいコメントをありがとうございました。「日経ビジネスが…介護料理の本?」と言われつつ、応援を力に、ついに単行本になりました。書籍名は『希望のごはん』。クリコさんの「食べることは、生きること」という言葉の意味を、そのままタイトルに取りました。

 もちろん、ただ連載を本にまとめただけではありません。エピソードのブラッシュアップはもちろん、33の人気メニューをフルカラーでレシピ紹介。食材の柔らかさの見立て方、万一の誤嚥や窒息の避け方など、実践でつかんだ介護食のノウハウも、担当編集者が「これじゃもう一冊作るのと同じ」と悲鳴を上げるほど満載です。

 家族と食と仕事への愛情が見えてくるエッセイとして、介護食のハウツー本として、そして何よりバカップル本として、お楽しみ頂ければ幸いです。

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