クリコ:そうですね、わたしがアキオの大好物のクリームシチューでコツをつかんだように、「これさえ出せば機嫌がいい、喜んで完食してくれる」という“鉄板メニュー”を見つけられたら、それが突破口になると思います。

 その鉄板料理を一食分ずつ冷凍しておけば、温めるだけでいつでも出せる。これだけで時間にゆとりが生まれます。そうしたら、以前食べていた大好物をどう形を変えたら食べられるか、どのくらいやわらかければいいのか想像して、作ってみようという気持ちのゆとりも生まれやすい。

 型にはまらなくていい。自由な発想で一品ずつ「新しい我が家ごはん」を作るのはとても楽しいです。たった1つの“鉄板”をキッカケに、ハッピーなスパイラルへの入り口に立てるとわたしは思っています。

 そして、家族が、一皿でもいいから同じ献立で、一緒に同じ食事を囲む食卓は「これ、おいしいね」「そうだね」と笑顔がこぼれて、癒し癒されて心身が満たされていく、楽しくて大切な時間。大事にしてほしいです。

ああ、楽しく笑えることがあった、いい一日だったと振り返る

 食事以外のことで、何か介護中のアドバイスはありますか?

クリコ:あります! 実は自宅療養中、アキオとわたしはわずかな時間を見つけては、ダイヤモンドゲームやオセロゲーム、ジグソーパズルに夢中になりました。「あ、そこ、ちょっと待って」「いや、待たない!」みたいな(笑)。子供に返ったみたいに二人で無邪気に笑って、楽しかった~。

 やっぱり「笑う」と元気が出ます。あの時間はアキオの弱った心を温めて、明日への生きる希望になったはず。それは、わたしにとっても。

 ほかにもクスッと笑えるようなエピソードは日々の中にたくさんあって、わたしはそれを書き留めていました。一日の終わりに、小さな喜びを振り返る。それで乗り越えられたのかなあ、と思います。いま介護に取り組んでいる皆さんも、日々の中で感じる小さな幸せや笑いを集めてみては。そして、ひとりで頑張らずに、周りの助けを借りて、ゆとりの時間をぜひ作ってほしいですね。

抹茶ムース
抹茶と砂糖とゼリー化パウダー(介護食用ゲル化剤)を混ぜて作った抹茶液を泡立てた生クリームに混ぜるだけ。たった5分で抹茶ムースの完成。芳醇な抹茶の香りとほのかな苦みが上品に調和した和風デザートに

 ありがとうございます。最後に、いまアキオさんに伝えたいことをお聞かせください。

すべてのおいしい思い出が「アキオごはん」につながっている

クリコ:そうですね…まず、わたしを信頼してすべてをゆだねてくれたことが、介護する者としてとても幸せでした。

 大切な人に料理を作る喜びを教えてくれたこと、一緒においしい時間をたくさん共有できたこと、料理の道へ導いてくれたことに感謝しています。

 どんな料理もアキオと一緒だからこそ、何倍にもおいしく感じられました。アキオが残してくれた、たくさんのおいしい思い出はわたしの宝物。それが「アキオごはん」につながっています。アキオに食べてもらいたかった「アキオごはん」を、多くの方のお役に立てるように作り続けると天国のアキオに約束します。介護食の活動を通して、社会とかかわり、ほんの少しでも誰かの役に立つことが今のわたしを支え、生きる力になっていると伝えたい。

「幸せにしてくれて、ありがとう。
痛いことやつらいことを、半分こにできなくてごめんね」。

著者プロフィール

料理研究家・介護食アドバイザー Curikoこと 保森千枝
クリコ流ひとりひとりの介護ごはん」にてレシピ公開中