クリコ:アキオのその期待と喜びの表情と、わたしが作った食事を食べて、それが身になって、生きる活力がみなぎっていく様子に、わたしは改めて「ああ本当に、食べることは生きることなんだ」と感じました。おいしく食べることが気を(気力を)養う。心と身体を育むのだと。

 だから、食事で食欲を喚起できたら、それがそのまま「生きる希望」につながるんじゃないかと気づきました。家庭で作る介護食だけでなく、食品メーカーや外食産業、スーパー、コンビニなどが、利用者の立場に立ち、求めやすさを考えた「おいしそうで食欲をそそる介護食作り」を提供し続ける努力こそが、超高齢化社会の明るい未来につながるのかも、と思います。

 食欲は「生きることへの欲」そのもの。

クリコ:はい。

 そう遠くない将来には、家庭で作る介護食、スーパーやコンビニで気軽に買える介護食、レストランで食べる介護食と、いろいろな選択肢があってほしい。今回の牛丼のニュースのように、日本の食品メーカーの技術力、開発力をもってすれば、それほど難しいことではないと思うんです。

 野菜ピュレのパックを商品化している食品メーカーもありますが、これも業務用向けのみで個人では買えません。在宅介護・在宅高齢者向けのサービスとしては、お弁当形式で宅配してくれる「介護食の宅配サービス」がありますけれど、費用もかさむし、その日の気分でメニューを選べるわけではない。在宅介護の食事については、「家族まかせ」「当事者まかせ」で、ニーズに対してサポートするサービスや商品が十分ではないと思っています。

 歳をとっても「おいしく食べる選択肢がたくさんある」ことの幸せについて、想像してほしいんです。この先ずーっと「毎日おいしい」が広がる未来(笑)。なんだか、うれしくなりませんか?

イワシのバジルトマトソース
身がしっとりとやわらかいイワシをオリーブ油でソテー。角切りトマトに、にんにくとハーブのバジルを混ぜて作ったイタリア風フレッシュトマトソースをたっぷり添えれば、見た目もさわやかな一品に

 なるほど。ところで、クリコさんの介護食料理を初めて見たときは「えっ、これが介護食なの?」と正直、驚きました。あれは、ここで紹介するための盛り付けですか? それとも、あの見た目そのままの料理を毎食アキオさんに出していた?

クリコ:もちろん、こちらでご紹介した料理はすべてアキオに毎日出していた、そのままの盛り付け、そのままの見た目です。アキオが、パッと見て「おいしそう~」と言ってくれる料理を出してあげたくて♪

以前と同じように、食べることを楽しんでほしい

 普通、介護食というと、食べやすさや栄養が第一だから「見た目はまあ置いといて」みたいなイメージがあります。

クリコ:食べることが大好きなのに、手術後は思うように食べられなくなってしまって。命は助かったけれど、それはアキオにとっては大きなショックだったはず。食事で栄養をつけるのはもちろんですが、「わああ、おいしそう!」と元気だった頃と変わらずに、食べることを楽しんでほしい。

 それで、「アキオの食欲をそそる見た目にもおいしそうな流動食を作ろう。わたしがやるしかない! 病気だからといってアキオから食事の楽しみを奪ったりしない!」と心に誓ったんです。

 でも「食欲」と「流動食」って、もうすでに矛盾が含まれている組み合わせのような気がしますね。

クリコ:ええ、流動食という言葉が「おいしくなさそう」というイメージに直結してしまって、「食欲をそそる流動食」と言われても想像できない(苦笑)。