イチジクのコンポート
そのまま食べても軟らかくておいしいイチジクを赤ワインで煮てコンポート(果物を砂糖とワインで煮たデザート)に。色鮮やかに煮上がったイチジクのとろりとした食感と優しい甘みが上品なデザート

 会社員のアキオさんと料理研究家のクリコさんは「僕の方が君を愛してる」「いや私の方が愛している」と互いに言い合うほど、仲良しすぎるバカップル夫婦。口腔底がんの手術で、ものを噛む機能に障がいが残ったアキオさんのため、初めて介護食作りに挑戦したクリコさんは、悪戦苦闘の末に「介護食は新しい家庭料理なんだ」と、見た目にもおいしそうな「アキオごはん」を次々と作りました。残念ながら、アキオさんは亡くなりましたが、クリコさんはアキオごはんのレシピを広く紹介したいと活動を始めています。

 日経ビジネスオンライン史上、最甘のバカップル・ノンフィクション「ダンナが、ガンになりまして」最終回の今回は、著者クリコさんへのインタビューをお届けします。(聞き手は編集Y)

 先日、牛丼チェーン大手の吉野屋が「牛丼の介護食を開発した」と発表しましたね。

クリコ:はい! 人気の味はそのまま変えずに、お肉をやわらかくした「牛丼やわらか介護食バージョン」ですよね。「介護食・未来予想図(こちら)」でお話しした「飲食店に介護食メニューが当たり前にある時代がやってきたんだ!」と思いました。

 そうそう、わたしも初めはそう思いました。

クリコ:牛丼屋さんでやわらかい介護食牛丼が食べられる! と飛び上がるほどうれしくて。アキオがいたら絶対に食べさせてあげるのに、ああもう、うれしいやら悔しいやら。でも、よくよくニュースを見ていたら…

 やわらかい牛丼介護食は店では提供せず、介護施設など向けの業務用のみの販売でした。

クリコ:てっきり、メニューに「やわらか牛丼」があって、お店で食べられて、お弁当で持ち帰ることもできると思ったのに、お店では食べられない。業務用にパッケージに入れて販売するなら、店頭でもそれを温めて提供できるんじゃないですかね? せめてネット通販で個人でも買えたらいいのに……(しゅん)。

「やわらか」惣菜や弁当が、なぜコンビニに無いの?

 「レストランにやわらか介護食メニューがある」「スーパーやコンビニにやわらか惣菜や弁当が売っている」という未来図は、どういうキッカケで考えたんですか?

クリコ:家庭料理と介護食の間に垣根なんて無い、垣根は自分の気持ちが作っていただけなんだ! と実感してから、だったらなぜ、外食のメニューに無いんだろう、普通のお惣菜と同じようにスーパーやコンビニに「やわらか弁当」「やわらか惣菜」が無いんだろう? と。

 スーパーやコンビニでお惣菜やお弁当を買っているお年寄りの方を見かけるたびに「あのお弁当のほうれん草のお浸しは噛み切れるのだろうか、上手く食べられずに残すのではなかろうか」、と心配になる。いまこの時点でも、やわらか食のお惣菜やお弁当がスーパーやコンビニの店先に並んでいたら、喜んで買う方は多いと思います。今回の牛丼も、もちろん。

 確かに、いますぐ介護が必要というわけではない元気な高齢者でも、やわからい食事のほうが食べやすいという人はいるでしょうね。

おいしく食べることが「生きる希望」を生み、心と体を育む

クリコ:わたしはアキオの「おいしい」の一言を聞きたくて、それだけのために「食欲をそそる流動食」作りに挑んだわけですが、驚いたのはアキオがわたしの作った料理を見た時の、「うわー、おいしそう!」と喜ぶその表情だったんです。

 パァーッと明るくなって、まるで花が一気に開いたようだった。病気でどうしても気持ちが弱りがちなだけに、余計にうれしかったのだろうと思います。