そうそう、この頃、アキオと入った有名珈琲チェーン店で、アキオがアボカドとソーセージのアボカドドッグを注文した。両手で力いっぱいつぶして、アキオは長い時間をかけてこれを食べ切った。口のまわりと手がアボカドの緑色に染まってる。子供みたいでかわいい。

 ああ、あのときハンバーガーをおいしく食べたと言っていた(前回、ついに職場復帰! 召しませ愛の「流動食弁当」でお伝えした)のは、本当だったんだ。アキオは食べたいモノを食べておいしく味わったんだと、胸が詰まるほどうれしかった。

会社の机の中の私物を取りに行きたい

 アキオが最後に楽しんだ外食は穴子丼だ。

 医師から、出社禁止の絶対安静を言い渡されたあと、アキオは「会社の近くに、おいしい海鮮丼を出す店があるから、どうしてもクリコに食べさせたい」と、車椅子のアキオが連れて行ってくれたのだ。

 わたしが海鮮丼を食べ、アキオは穴子丼を食べる。食べることが大好きなアキオとわたしはいつも、外食時には必ず、別々に違う料理を注文する。そうすれば「半分こして、分けっこ♪」することで2つの違う料理を楽しめるからだ。

 このときも、もちろん海鮮丼と穴子丼を分け合って食べた。わたしが「おいしいね」というと、アキオは「でしょっ」と得意げな笑顔を向けた。

 その店を出ると、アキオの勤務先の会社は目と鼻の先。わたしは、食事を終えたらすぐタクシーで帰るつもりだった。なにしろ医師から絶対安静と言われている。これ以上、無理をさせるわけにはいかない。だが、アキオは「会社の机の中にある私物を取りに行きたい」と言い出した。

 ……もしや、会社に行きたくて海鮮丼を持ち出した!? 謀られた!

 どうしても行きたいというアキオに根負けしたわたしは、ちょっとの時間だけと約束させて、アキオを職場へ連れて行った。

 アキオの姿を見つけると、フロアのあちらこちらからたくさんの同僚の方々が集まってきて、アキオの車椅子を取り囲み、次々と声をかけてくれる。そのときのアキオのうれしそうな顔といったら! どれだけ職場を愛しているんだ、この人は!

 アキオが言っていた通り、こんなにやさしい人たちに囲まれて、アキオはなんて幸せなんだと、うれしかった。彼を職場に連れて来て本当によかった。アキオの残された時間がわずかであることを知っているひとの中には泣いている方もいたが、アキオは笑って、言葉を交わしていた。わたしは、ああアキオは大好きだった職場とその同僚の皆さんにひと目会って挨拶をしたかったんだな、と気づいた。

一番大切で、最後に残されるのは希望

 それからも、新しいスマホを買ったり、デジタルスピーカーを買ったり、わたしに内緒のプレゼントを用意してくれたり、余命宣告の期限より先のコンサートのチケットを買ったりと、アキオが生きることを放棄することはなかった。

 以前からわたしが行きたがっていたヴェネツィアへ旅行しようと言い出した時は驚いたが、わたしに楽しい思い出を残そうとしてくれるアキオの想いがうれしかった。