さらに、以前に作った鶏カツがアキオに大好評だったことを思い出し、トンカツを作ることに! 豚のひき肉で作ったシート肉(「ガンで噛めない夫に、愛のすき焼きを♪」でご紹介)を数枚重ねて、細かいパン粉をつけて揚げ、「ふわふわ豚シート肉のトンカツ」を作った。箸ですっと切れるほどに軟らかい。思わず、まい泉のトンカツサンドを思い浮かべてしまう(これ、実際にサンドイッチにするとメチャクチャおいしいです)。

ビックリするほどやわらかい食感のトンカツは、誰が食べてもヤミツキになるおいしさ!

えっ、ラーメンとハンバーガーを食べた!?

 仮の入れ歯が入ってからも、食べる時間が制限される会社では、昼食は流動食弁当が中心だった。でも、午前中に病院で定期検査がある日は、流動食弁当はお休み。アキオは外でランチを食べることになった。

 そんな日は、アキオのお昼ごはんが心配で仕方なかった。アキオが帰宅すると真っ先に「今日のお昼は何を食べたの?」と尋ねる。すると、アキオはいたずらっ子のように「何だと思う~?」と言って、ニンマリ笑う。もう、可愛いったらない。

 まったく想像がつかず、わたしが答えられないでいると、アキオは「コレが目に入らぬか~」とばかりに、携帯電話を印籠のようにグイっと突き出してくる。その顔は得意満面のドヤ顔だ。携帯電話の画面に写っているのは、なんとラーメン!

 写真を繰っていくと麺を食べ切り、スープも飲み干した後の器があるではないか。いまのアキオがラーメンを食べられるとは思ってもみなかったわたしは、嬉しさと驚きが交互にやってきて、「え~っ、え~っ、ウソ~」という言葉しか出てこない。

 アキオは下あごが麻痺しているため、麺を口の中にすすりあげることができない。おそらく少量ずつの麺をれんげに載せて口の中に運び、時間をかけて食べたのだろう。時間が経って、ふやけた麺も食べやすかったのかもしれない。

 でも、その器の底にチャーシューが残っている写真を見た時は、切なかった。食べられなかったのだ。お肉はミキサーである程度粉砕して、とろみをつけないと飲み込みにくい。きっと食べたかったよね、お肉大好きだもんね、くすん。

 こんな日もあった。

 「今日さあ、どぉ~してもハンバーガーが食べたくなって、お店の隅っこの席でね、食べたんだよ。うまかった~」
 「えっ!? ウソでしょっ!?」

 何回ウソつき呼ばわりすれば気が済むのか。「だって、パンは噛み切れないじゃない。どうやって食べたって言うの?」というのは、わたしの心の声だ(パンはパサパサしているので小さく切っても食べにくい。それなのにハンバーガーを食べられたなんて、にわかには信じられなかったのだ)。

食べたいものを食べることは生きる希望だ

 両手で力一杯、ハンバーガーを上から押してつぶしてから、少しずつ口の中に入れて食べたのだと言う。おそらく、押しつぶしたことで具材の水分がパンにしみ込み、しっとりして食べやすくなったのだろう。一口ずつ鏡を見ながら口に入れ、食べ終わるまでには、かなり苦戦したらしいが、その顔には満足の表情が広がっていた。

 本当はチャーシューだってハンバーガーだって、モリモリ食べさせてあげたい。こういう時、わたしは心の中で泣いた。

 それでも、仮の入れ歯が入ったことで食べられるものは飛躍的に増え、アキオは、これまで食べたくても食べられなかったものを貪欲に、果敢に征服していった。

 食べることは生きること。自分が食べたいものを食べられるというヨロコビはアキオにとっては生きる希望そのものだった。仮の入れ歯でさえ、これだけ食べられるのだから、将来は今よりもっと食べられるようになる。その未来への期待がアキオの生きる活力となり、その表情をイキイキと輝かせていた。

(つづきます。次ページには「アキオごはん」の数々が!)