でも、それは取り越し苦労だった。

 「クリコの流動食弁当は世界一! おいら幸せ者ぉ~」

 と、アキオからうれしいうれしいメールが届く。同僚の方に「えっ、流動食のお弁当なの?」と驚かれたというが、「おう、これがすごい、うまくてさぁ。よその普通の弁当よりうまいんだよ」と言っていたと聞いた。

 こんなことを言われたら、猛烈に頑張れる。アキオのためなら、エンヤコラ! 流動食のお弁当作り、頑張りますがな。

5カ月ぶりの銀シャリ、うまあ~~い!!

 口腔底がん手術から5カ月が経ち、待ちに待った「仮の仮の、そのまた仮のオモチャのような入れ歯」がやっと出来上がった。「クリコ、今日の夕飯、ご飯炊いといて!」と電話をしてきたアキオの声は興奮し、喜びで弾んでいた。

 実は、術後にアキオの入れ歯を作ってくれる歯科医師を探すのにはとても苦労した。ツテを頼って、何軒も歯科診療所の門をたたいたが、異口同音に「難しい。出来ない」と断られ、絶望的な気持ちになった。

 しかし、神様はわたしたちをお見捨てにはならなかった。

 心が折れそうになりながらも探し続けたある日、「とても困難ですが、最善を尽くします」と言ってくれる歯科大学病院・高齢者歯科の医師と出会えたのだ! そしてその言葉通り、その医師はアキオの入れ歯第1号を作ってくれた。後に第2号も誕生するのだが、この先生の存在なくしては、その後のアキオの目覚ましい快復は望めなかった。一生感謝してもしきれない、命の恩人だ。

 さて、念願の入れ歯が入った日の夕飯、期待にふくらむアキオの目の前に、普通に炊いた、炊き立てのご飯を置いた。5カ月ぶりのご飯にアキオの目が輝く。

 一口含み、「うまあ~い!」と歓声を挙げ、アキオはご飯を一気に食べた。全部食べられた! ずっとお粥しか食べられなかった日々から脱出した記念すべき夕飯となった。まだまだ仮の入れ歯のため、十分な咀嚼はできていなかったと思うが、ご飯のふんわりした食感と、あまい香りにアキオは大満足のおいしい笑顔をみせた。

タンシチューと海老グラタン? それは無理でしょ!

 入れ歯第1号装着後、初の外食を試みたある日、期待と興奮でいっぱいのアキオが、ある有名洋食店の前で足を止めた。その目は店の前に置かれているメニュー看板の「タンシチューと海老マカロニグラタンのセット」という文字に釘付けだ。視線が熱い!

 「いや~、いくら何でもそれは無理でしょう。お肉はブ厚いし、海老はぷりっぷりの弾力だし。今のあなたにはムリ!」

 …とは、とても言えないほど熱のこもった「食いてぇ~光線」がアキオの目からビビビビビーッと発せられている。そのエネルギーのあまりの強さに、わたしも「ええ~い、イチかバチかチャレンジしてみようじゃないの! 何ならソースだけでもおいしいし!」と、アキオと一緒に勢いよく店に入った。