写真は筆者クリコさんが、夫アキオさんのために作った海老フライ(介護食バージョン)です。海老のすり身で作ったフライはふわふわで、噛む力が弱いアキオさんもおいしく食べられます

 口腔底がんの手術後、ものを噛む機能に障がいが残った夫・アキオさんのために、初めての介護食作りに取り組んだ料理研究家の妻・クリコさん。前回は、実はクリコさんが在宅介護の介護食作りを取り巻く環境についてとても怒っているというお話から、クリコさんが思い描く「介護食の未来予想図」についてご紹介しました。今回は、手術後のアキオさんが職場復帰してからのお二人の、ゲップが出そうなバカップルぶりをお送りします。覚悟してお読み下さい。

(前回から読む

 口腔底がんの手術に続き、食道がんの手術も果敢に乗り切ったアキオは、4カ月余りの自宅での療養生活を終え、念願の職場復帰を果たした。

 出社する日の朝、久しぶりにスーツに身を包んだアキオは、まるで新入社員のように、ちょっぴり緊張と期待が入り混じるような面持ち。その瞳はイキイキとし、頬は上気していた。帰宅したときも興奮が冷めず、まるで学校での楽しさをそのまま持ち帰った子供のよう。仕事仲間との時間がたまらなく嬉しい様子だった。

 この頃のアキオは、口の中の手術の傷も少しずつ癒え、毎日のリハビリの効果もあり、噛む力が少しずつ強くなって食べ方がしっかりしてきていた。とはいえ、普通に炊いたご飯はまだ食べられず、全粥(ご飯の5倍の水で炊いた粥)を食べるのがやっとという具合だった。

 そんなアキオの職場復帰で、わたしの一番の気がかりは昼食だった。

念願の職場復帰、ランチは愛妻「流動食」弁当!

 食べるのに時間がかかり、鏡を見ながら食べる必要もあり、同僚の皆さんと一緒に外でランチを食べるのは難しい。そこで、アキオの要望もあって、お弁当を持っていくことにした。クリコ流・手作り流動食弁当だ。

 就業中、お昼休みの時間は限られる。自宅での食事のように、たっぷり時間はかけられない。わたしはアキオの大好物の中から、できるだけスムーズに、短時間で食べられるものを選んで作った。

 たとえば、メインのおかず2品は、鮭のクリームシチューとハッシュドビーフ。鮭は脂がのって身がしっとり軟らかいハラスを使い、ハッシュドビーフは軟らかく煮込んで粗めにミキサーにかけたもの。野菜のおかず3品は、人参のムース、ブロッコリーのピュレのたらこマヨネーズ和え、ほうれん草のピュレの白和え。小さいおかずは、粒ウニ、海苔の佃煮。デザートには、トマトとオレンジのゼリー。そして全粥という具合だ。

 メインのおかずとお粥は、温めて食べられるよう電子レンジ対応の小分けケースに入れ、電子レンジの使い方に不慣れなアキオのために、何ワットで何分何秒温めるかを書いたシールを貼った(過保護とわかっていても、つい甘くなる♪)。

 こうして始まった流動食弁当の毎日だったが、わたしは自分の目の届かないところで食事をするアキオの姿を想像すると、たまらなく心配だった。ちゃんと温められただろうか、おいしく食べられただろうか? 流動食のお弁当ということで、恥ずかしい思いをしていないだろうか? と、まるで母親みたい。