写真は筆者クリコさんが、夫アキオさんのために作ったオニオングラタン(介護食バージョン)です。パンの代わりにお麩を使うことで、噛む力を失ったアキオさんでもおいしく食べられます

 前回は、口腔底がんの手術後、ものを噛む機能に障がいが残った夫・アキオさんのために、料理研究家の妻・クリコさんが「介護食は家庭料理の一つなんだ!」と開眼したこと、そして、独自に考案した短時間で作れる冷凍野菜ピュレCubeを使った介護食をご紹介しました。第1回の冒頭でもお伝えしましたが、実はアキオさんは残念ながら、すでに他界されています。今回は、夫を見送った妻が実はとても怒っている、というお話。さて、今も亡き夫をこよなく愛し続ける妻は一体何に対して怒っているのか?

(前回はこちら

 思えば、わたしは、アキオの介護食を作るに当たって、信じられないほどラッキーな環境にあった。

 まず、専業主婦で子供に恵まれなかったことで、結果的に時間をすべてアキオのために使える環境だった。そして、料理研究家で料理の経験と知識があり、当初は苦労したものの、介護食作りのコツをつかんでアキオの口の中の状態に合う、簡単に短時間で作れる料理のアイデアを次々に生み出せた。

 それをアキオがおいしいと言って食べてくれるうれしさ、楽しさといったら! 「おいしいね」と一緒に食卓を囲む時間は、とても幸せだった。

 もしもわたしが、例えば仕事を持ちながら子育て中だったり、料理に慣れていなかったら、あるいはもっと高齢で体力が衰えていたら、おそらく手間と時間の壁に阻まれて、レシピを考えるのは到底無理だった。そう考えて、わたしが作った、家で簡単に作れる介護食レシピを在宅介護中の皆さんの役に立てていただけたら、と思うようになった。

 というのも真実だが、全てではない。

 実は、そうしたわたしの想いの根底にあり、自分を動かす力になっていたのは、介護と介護食作りの日々の中で感じていた世の中や社会への怒りだった。

食べられなければ体力が回復せず、手術が受けられない

 2011年、口腔底がんの手術の前に、アキオに新たに食道がんが見つかった。幸い、食道がんは初期だったため、内視鏡手術で切除できることがわかり、アキオは、口腔底がんの手術後に、体力の回復を待って食道がんの内視鏡手術を行うことになった。

 だがもし、食道がんが少しでも進行してしまったら、内視鏡での切除は難しくなり、手術はもちろん、体力的に他の治療法も施せないと医師から告げられていた。食道がんが進行しないうちに内視鏡手術を行わなければならない。食べられなければ体力が回復せず、手術が受けられない。手術を受けられなければ――。

 以前ここでお伝えした、わたしが介護食作りを始めた当時の話(第2回)は、実は、本当に後がない切羽詰まった状況だったのだ。

 わたしは自分が作る食事にアキオの生命がかかっているという厳しい現実に、責任と重圧で押しつぶされそうで、それこそ毎日、生きた心地がしなかった。わたしには時間的なゆとりはあっても、精神的なゆとりはまったくなかったのだ。

 しかも、以前お話ししたように介護食作りを始めた当初、病院に助言を求めたが得られず、参考になるレシピ本は探したが見つけられず、レトルトパックの市販介護食品と宅配食の流動食はアキオの好みに合わず…と、初めての介護食作りの参考になる情報や、役立つモノに出合えなかった。

 わたしは、一日中キッチンにいて試行錯誤を繰り返すことになり、やがて、目の前の作業に追われながら、その、追われていること自体に憤りを感じ始めていた。

 アキオはわたしが守る。絶対に守るんだ。だけど、なぜ、こんなにも大変なの? この超高齢化社会には、もっと、助けになる商品や情報や、サービスがあるものと思っていた!

 今回、改めて、介護食作りを取り巻く環境は変わったのだろうかと、調べてみることにした。