家庭で作るからこそ、工夫や心配りができる
家庭で作る介護食だからこそ、ひとりひとり状態が違う「食べる人」の「噛む力・飲み込む力」に合わせて、きめ細かい工夫や心配りができるのだと実感する。そして、すべてではなくとも、一皿でも二皿でも、アキオと同じ献立で同じものを食べ、一緒に「おいしいね」と言って笑う。その瞬間がうれしかった。家族が病気だからこそ、毎日の食事を共にする幸せが大切なのだと、このとき切実に感じた。
※この頃、アキオが友人に送ったメール:
「病院では絶対に食べられない、おいしい病人食を毎日食べている。西京焼きの魚をほぐしたのと、とろみ添え。肉みそ入り豆腐とお麩と葉っぱのすき焼き風。刻みハムと粉チーズ入りイタリアン雑炊。ふわふわぷるぷるのデザート各種…。とにかく、食べるおかずの量が自然に増えていくのだ」
「見て、見て! 増えてるよ!」
アキオは退院後の3カ月間に流動食だけで体重が3キロ増えた。
体重計に乗り、「クリコ、クリコ、見て見て、増えてるよ!」とわたしを呼ぶ。体重が増えると、食べたものがちゃんと身になって、体力がついてきていることを実感でき、快復への意欲がさらに増す。そして、その後さらに2カ月後には、アキオの体重は4キロ増えて元の体重に戻ったのだった。
「流動食だけで7キロ増えた」と病院の医師に報告すると「それは凄い!」と驚かれ、医師たちの驚きぶりにこちらがビックリするほどだった。
わたしは小さい頃から家の台所が好きで、母の料理する姿を見ながら料理を覚えた。アキオが人を家に招くのが好きだったことから、いろいろな料理を作って、人をもてなす機会が増え、それが好評で料理教室を開くようになり、自然な流れで料理研究家になった。
アキオの介護食作りが楽しくなり、アキオの体重が増えていく嬉しい日々の中で、ある日、唐突に気づいた。
「ああ、わたしはこの時のために今まで料理をやってきたのだ、神さまがこの時に役に立つように用意してくれていたのだ!」と。
うれしかった。専業主婦で子供もいないという境遇で、1日中、介護食作りができることも、神さまのわたしたち夫婦へのお計らいのように思えた。
うるうるの涙目で空を見上げ、神さまに深く深く感謝した。
(つづきます)
わたしが作った「アキオごはん」を少しご紹介します

鶏ひき肉に大和芋と豆腐などを加えてミキサーにかけて作った鶏団子は舌と上あごでつぶせるほどのふわふわの軟らかさ。トマトソースで煮込み、粉チーズをかければ、本格イタリア料理も楽しめます
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