例えば、Eスコアの減点要素である技術欠点には「正しい静止姿勢からの角度の逸脱」という項目がある。そこでは角度のずれに応じて、減点が「15度までは0.1、16~30度は0.3、31~45度は0.5」などと定められている。

 2016年リオデジャネイロ五輪の男子個人総合では、内村航平選手がウクライナの選手を最後の鉄棒で逆転して五輪2連覇を成し遂げた。このときの得点差はわずか0.099。つまり、極端な話、上記の「角度の逸脱」において、角度のわずかな違いがメダルの色を左右する可能性がある。審判にかかるプレッシャーが大きいことは容易に想像できる。

 さらに近年の「アスリートファースト」の考えが、判定をより難しくする傾向にあるという。「例えば男子のあん馬では従来、選手のすぐ目の前で審判員が見ていた。そうなると会場は審判員ばかりが目立つため、アスリートファーストの考えから審判員はもっと外側に座るようになってきた。審判が選手から離れ、見る角度も制限されるようになったため、『15度か』『30度か』など判定がより難しくなっている」(富士通 東京オリンピック・パラリンピック推進本部シニアディレクターの藤原英則氏)。

 これまでスポーツ選手の動作分析には、「モーションキャプチャー」が主に使われてきた。これは、赤外光を反射する球体(マーカー)を肩、肘、膝などに装着し、赤外線カメラで選手の動きを捉える技術である。

 これに対して、3Dレーザーセンサーならマーカーの装着が不要なため、選手の演技の邪魔にならないほか、実際の試合でも使える利点がある。システム価格もより安価にできるという。

FIGと進める「新たな基準作り」

 ただし、これまで誰も手掛けたことがない体操競技の「採点のデジタル化」は、FIGにとっても富士通にとっても大きな挑戦であり、地道で骨の折れる作業だ。

 例えば、あん馬で体の正面で馬体を支持する「正面支持」。教本には「正面支持の姿勢で、体があん馬に対して15度以内に収まっていること」と書いてあるが、その場合の「体」とはどこか、頭のてっぺんから足の先までなのか、首から腰にかけてのラインなのか、などが明確に書かれていない。

 このようにアナログ的な曖昧さが残るものを「0」「1」のデジタルの世界に落とし込むには、「骨格Aと骨格Bの角度を15度以内」というように、いちいち厳格に規定しなくてはならない。