では、選手を指導するコーチは、こうしたスポーツ現場の“デジタル革命”をどう見ているのか。現在は世界ランキング12位(2018年2月上旬時点)のジョアンナ・コンタ選手のコーチで、かつてはグランドスラムを制した複数の選手の指導経験もあるトップコーチ、ベルギー出身のウィム・フィセッテ氏が日本スポーツアナリスト協会(JSAA)が主催したイベント「女子プロテニスを変えるデジタル革命」(開催:2017年9月19日)で登壇し、ビッグデータ時代のコーチングについて語った。

分析時間が大幅に短縮

コーチが試合の膨大なデータを手にすることで、何が変わったか。

現在世界ランキング12位(2018年2月上旬時点)のジョアンナ・コンタ選手のコーチで、かつてはグランドスラム大会を制した、キム・クライシュテルス元選手やビクトリア・アザレンカ選手といった名選手のコーチを務めた経験を持つ、ウィム・フィセッテ氏
現在世界ランキング12位(2018年2月上旬時点)のジョアンナ・コンタ選手のコーチで、かつてはグランドスラム大会を制した、キム・クライシュテルス元選手やビクトリア・アザレンカ選手といった名選手のコーチを務めた経験を持つ、ウィム・フィセッテ氏

フィセッテ:データによって我々の仕事が大きく変化し、以前よりかなり楽になった。データ分析のツールがなかった10年前は、実際に対戦相手の試合を見に行き、紙の上にシールでボールの落下点をプロットするような作業をしていた。SAP社のアプリができたことで、今では10試合分のデータをわずか30分で分析できる。

 また、試合中はデータのリアルタイム分析によって、コーチはなぜ自分の選手が勝っているのか、または負けているのかがiPad上で分かる。オンコートコーチングでは1セットに1回、選手にアドバイスできるので、試合中にデータを示しながら以降の戦術を指示している。

データによって試合はどう変わったか。

フィセッテ:データがあることで、確実にゲームが面白くなった。拮抗した試合が増えている。

 例えば、2015年にグランドスラム優勝経験があるビクトリア・アザレンカ選手のコーチをしていた。その際、アンゲリク・ケルバー選手との試合があった。最初はアザレンカ選手が勝った。そして2週間後の全豪オープンで再び対戦したらケルバー選手が戦術をまったく変えてきたために負けてしまった。さらに2か月後に、今度はアザレンカ選手が戦術を変更して勝った。こういったことの繰り返しになっている。選手・コーチがいかにデータをうまく分析するかが重要になっている。

膨大な量のデータをどのように選手に伝えているのか。

フィセッテ:選手はコート上で孤独だ。次のポイントに集中するあまりに、試合の流れを俯瞰できないことも多い。そこでコーチは、試合全体の流れを見ながら戦術を立てる。

 その際、どのデータを選手に見せるか、見せないかを決めるのはコーチの重要な役割だと思う。SAP社はアプリを設計する前に、我々が何を見たいかについてきちんとヒアリングしてくれた。だから、我々にデータを絞った形で提供してくれる。

例えば、サービスに関するデータの画面から何を読み取っているのか。

フィセッテ:対戦相手のサーブの傾向が分かる。例えば、相手のほとんどのサーブがバック側に入っている際は、自分の選手に「フォア側は気にしなくていい」と指示を出せる。逆にこれが自分の選手のサーブなら「単調すぎるのでバリエーションを増やせ」と言う。

選手によってデータを参考にする人とそうでない人がいるのか。

フィセッテ:選手によってデータに対する向き合い方は違う。アザレンカ選手は詳細なデータを欲しがり、それを実際に使いこなしている。一方、コンタ選手はまったく異なり、感覚的にプレーする。だから、アザレンカ選手と同様の膨大なデータを与えることはできない。このように、コーチはどのような選手にも対応できるよう、やり方を変える必要がある。

スポーツイノベイターズ オンライン 2017年11月8日付の記事を転載]