2006年にはビデオカメラの映像認識によってボールのイン・アウトをライン判定する「Hawk-Eye(ホークアイ)」(現在はソニー傘下の英Hawk-Eye Innovations社)を導入。2008年にはオンコートコーチングを認め、さらにテレビ放送向けに試合のデータを提供するなどして視聴者の体験も向上してきた。WTAはイベントをさらに進化させるために新たなパートナーを探しており、SAP社の提案に興味を持った。

「3年間、選手やコーチに意見を聞きまくった」

 プロテニスのトーナメントは1年の大半、世界を転戦する。WTAの場合、33カ国で57イベントを開催している。このため、WTAは世界4カ所にオフィスを持ち、約100名のスタッフが24時間体制で働いている。「SAP社は自社のソリューションを提案する前に、こうしたWTAの事情を、時間をかけて理解するように努めてくれた。まず、お互いを知り、そして一緒に世界を回るファミリーになった」(Hitchinson氏)。SAP社をパートナーとして選んだ理由を、同氏はこう言う。

 実際、SAP社は選手・コーチ向けの分析アプリを、長い時間をかけて開発した。「設計を始める前に、3年間はツアーに帯同して選手やコーチにどんなデータが欲しいのか意見を聞きまくった。取得するデータは膨大にあるので、どんなデータに絞って見せたら役に立つかを聞いた。そして、4年目からアプリの開発を具体化した」(Lewis氏)。闇雲にすべてのデータを見せるのではなく、ユーザー視点を貫いたのだ。

 では、なぜSAP社というIT企業がテニスというスポーツ向けのソリューション開発に力を入れるのか。「ボールのトラッキング技術は、(他業界の顧客が求める)荷物や車両のトラッキングに応用できる。つまり、ここで得た知見を横展開できる」とLewis氏は説明する。

 SAP社はテニス以外にも、複数のスポーツに自社の技術を適用して独自のソリューションを開発していることで知られる。例えば、サッカーではドイツのプロサッカー1部リーグに属するTSG 1899 ホッフェンハイムで、脛(すね)あてにセンサーを入れて選手の動きをモニターし、プレーを効率化するための分析をしている。勝敗が明らかなスポーツは格好の“テクノロジーショーケース”である上、トラッキング技術などを鍛えるのに適した実験場にもなる。