昨今、ボールや選手のトラッキングシステムの普及によって、プロスポーツの世界では試合のデータを取得して、戦術の構築やトレーニングに活用するのはもはや“当たり前”の状況になっている。しかし、取得したデータをリアルタイムに分析して、コーチングすることが許可されているスポーツは現状、わずかしかない。実はテニスでも、グランドスラムを管轄するITF(国際テニス連盟)やATP(男子プロテニス協会)はオンコートコーチングを認めていない。
なぜ、WTAはこの先進的な取り組みを導入したのか。そして、どのような技術を使ってこれを実現しているのか──。日本スポーツアナリスト協会(JSAA)が主催したイベント「女子プロテニスを変えるデジタル革命」(開催:2017年9月19日)で明らかになった。
トップで居続けるために改革必要

この革新的な取り組みは、WTAとドイツIT(情報技術)大手のSAP社との長期間のパートナーシップの中で生まれた。SAP社は9年前から、プロテニスの大会に関与している。最初は試合を見に来る観客への情報提供などから始め、次のステップとして自社の技術を大会の運営に活用し、現在では「SAP Tennis Analytics for Coaches」というアプリケーションを通じて、選手やコーチに試合のデータを提供している。
その責任者が、同社Global Technology LeadのJenni Lewis氏である。彼女はこの仕事を5年前にアサインされ、「誰といかにパートナーシップを結び、どうしたらSAP社の技術をテニスのリアルタイム分析に生かせるかを模索し始めた」(Lewis氏)。そして、名乗りを上げたのがWTAだった。
「WTAは女子プロスポーツで世界トップの価値を誇る。この地位に居続けるにはコート上でも、ビジネスでも進化・改革を続けなければいけない」。WTAでパートナーシップを担当するDirector, PartnershipsのAmy Hitchinson氏は言う。

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