(写真=読売新聞/アフロ)

 5年前、トヨタの社員に向けて講演したのがお付き合いのきっかけだ。企業の永続性を大切にする私の「年輪経営」に共鳴して、わざわざ長野の山奥にいる中小企業のオヤジに連絡してきたのだ。

 謙虚ですごく頭がいい。相手が何者であろうと、「いい」と思えば、柔軟に相手の価値観に共鳴する。本社でお会いしたときもナッパ服(作業着)を着て応接室に現れ、社長室に案内してもらった。トヨタ創業家の御曹司でありながら、いや、だからこそ常に庶民的に振る舞っている。自己顕示欲がないのだ。

 通常、大手の上場企業ではこうはいかない。自分の代で業績を上げ、花道を飾って退任したいと考えている経営者がどれだけ多いことか。

 自己顕示欲は会社を大きくするエネルギーにはなるが、ともするとやり過ぎて、隠蔽などの不祥事を起こす。

 就任当初は、世襲に批判的な声が社内外に少なからずあったはずだ。それが今は誰に聞いても尊敬の言葉しか聞こえない。章男さんの経営思想と人柄が海外工場や取引先を含む巨大組織の隅々にまで浸透し、一枚岩になっている。

 ちょっと、ほめ過ぎたかな。難点があるとすれば、トヨタグループは巨艦のため、かじを切っても思った方向にすぐにいかないことだろう。その悩みは、これからも章男さんの宿命としてついて回る。そこはちょっと気の毒だね。