(写真=読売新聞/アフロ)

 読めば、わかる。又吉直樹の芥川賞受賞がフロックなんかじゃないことは。

 売れない芸人の〈僕〉が、4歳年上の漫才師・神谷に弟子入りしてからの10年の月日を描いた『火花』は、神谷の造型が素晴らしい。公園で奇妙な楽器を特に熱意も見せず演奏している若者に「ちゃんとやれや!」と怒る神谷。泣いている赤ん坊を〈昨日考えた、蠅川柳〉で本気で笑わそうとする神谷。借金で失踪する神谷。連絡がきたと思ったら、えげつない変貌ぶりを披露する神谷。

 そして、何より文章がセンスの塊。〈僕はすべての輪から放り出され、座席でも通路でもない、名称のついていない場所で一人立ち尽くしていた〉〈劇場の歴史分の笑い声が、この薄汚れた壁には吸収されていて、お客さんが笑うと、壁も一緒になって笑うのだ〉といった、はっとさせられる表現が頻出するのだ。すべての作家は偏見のない目で読んで、その本物感と大物感に少し怯えるべき。