(写真=中川真人)

 松井冬子を語るときに、その美貌に触れないのは難しい。現世から来世まで、見えるものと見えないものの双方を凝視するような目力(めぢから)はとりわけ印象的だ。

 むろん、彼女が現代日本画界で最も注目される作家と言われる所以はそこではない。松井が描く世界では、特定のかたちを持たない痛覚や情念、狂気、衝動、欲望といった感覚や感情が視覚化される。理性的な世界よりもむしろ、無意識の領域から人間の根源的な意識がゾンビのように蘇り、見る者はそこに自ずと自身の深層心理と重ねあわせ、意識を釘付けにされるのだ。彼女の目力は、あたかも人間の身体や精神、歴史という時間、さらには未だ見たことの無い死後の世界や霊界までを透視しているかのように、人類の普遍的な意識を、画面上にえぐり出している。

 逆に言えば、彼女の目力を介して、われわれは見えていなかった世界を見ることになるのだ。こう書くと実に近寄りがたい人物のように思えるが、松井冬子本人は実に真面目な努力家であり、男性的な豪快さや少女のような奔放さと、小動物のような敏感な状況認識力を併せ持つ。彼女の魅力は恐らく何らかの典型に収まらない、あるいは多元的な性質を内包したところから生まれる未知のポテンシャルにあるのだろう。