(写真=Everett Collection/アフロ)

 映画の世界ですでに「名優」と呼ばれる彼が、歌舞伎の世界に身を投じると聞いた時、思わず「あっぱれ!」と膝を打った。

 歌舞伎は「血筋の芝居」と言われる。自分の代で血を絶やすことは許されない。男46歳。尋常ならざる覚悟があったに違いない。ましてや父である二代目猿翁との確執を考えれば、「恩讐の彼方」といったところだろう。

 だが、“技術”はついてくるか。生まれてこのかた、歌舞伎の稽古をしてこなかった中車にとって、踊りは壁として立ちはだかり続ける。しかし、襲名披露で演じた「小栗栖の長兵衛」を見れば、セリフ回しはお手の物。祖父の三代目段四郎や父二代目猿翁に勝るとも劣らない。うっとりするような情熱的な演技力。やはり銀幕のスター、「猛優」だ。

 今後、楽しみのひとつが、彼が苦労してでも歌舞伎の血を引き継ぎたいと考えた息子の團子だ。熱演型の天才である父中車と、知性・演出力・舞踊力の三拍子そろった祖父猿翁、2人の血を継いだ團子。これまた、今から胸がざわめく。