(写真=矢幡英文)

 龍馬伝、ガリレオ、そして次に誰を演じるべきか――。僕が次の出発点を探していた矢先、是枝監督との出会いがひとつの転機になった。

 映画『そして父になる』。カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した、この作品で僕が演じたのは、ちょっと嫌な男だ。血のつながりか、一緒に過ごした時間か。知らぬ間に病院で息子を取り違えられた二つの家族の苦悩を描いている。

 映画が人間の写実だとすれば、それは矛盾や混沌、日常のわからないところだらけなのだろう。だから是枝さんは、撮影現場では役者に過剰に説明をしない。直前にセリフや流れを一通り説明するだけで、子役には台本も渡さない。子供たちの演技はテイクを重ねるごとに変化する。僕たち大人も、彼らに合わせるために準備してきた演技を捨てる。予定調和ではない、僕らの創造力や、監督の指示がないゆえの戸惑いのようなものが、作品の一コマ一コマに刻まれていく。人間らしい映画がうまれる瞬間だ。

 是枝さんからは、3つくらいの映画のアイデアをもらっている。いずれも僕が演じるつもりだ。次に何が起きるかわからないことを楽しむ勇気。その緊張の中に自分を追い込んでみる。こうした型にはまらない生き方こそ、是枝さんから学んだことだった。