(写真=アフロスポーツ)

 9月15日、岐阜長良川スイミングプラザは、新星の登場に沸き上がった。ぎふ清流国体男子200m平泳ぎで、鹿児島県立志布志高校3年生の山口観弘が、ロンドン五輪金メダリストのダニエル・ジュルタの世界記録を更新する2分7秒01という驚異的なタイムを叩き出したのだ。

 すでに彼は表彰台の常連であったために、今年に入ってから、私はその泳ぎに注目していた。「成長著しい選手だな」とは思っていたが、まさか世界的な大記録を打ち立てるとは予想だにしなかった。

 泳ぎの特徴は、北島康介とは異なる。ムチのようにしなるキックを持つ北島に対し、山口は手足にパワーがあり、強いスタミナを誇る。彼のようにラスト50mでもラップタイムを上げていく選手は、世界トップレベルの選手でもそうはいない。

 世界記録の裏には、ロンドン五輪出場を逃した悔しさがあると思う。山口は昨年秋、北島を育てた名コーチ、平井伯昌に師事、ロンドンでのメダルを目標に据えていた。ところが代表選考会では、100m、200mともに北島と立石諒に敗れ、苦汁を飲まされていた。

 北島が山口と同じ高校3年生で、2000年のシドニー五輪に出場し、決勝で4位に入賞していることを考えると、落選した山口のショックは計り知れないほど大きかったはずだ。

 その絶望が、彼を一気に頂点まで飛躍させた。

 早くも周囲は、「リオデジャネイロ五輪で金メダル」という期待を膨らませている。しかし、いきなり4年後に目標を据えるのではなく、その間の国際大会を一つひとつ、大切にクリアしていってほしい。それが栄光への常道だと、私は思う。