(写真=Jan Buus)

 一言でいえば「経営のプロ」、それがカルロス・ゴーン氏である。大学卒業後、仏ミシュランに勤務したが、20代後半には工場長となり、30代には海外現法の社長を経験している。その後、仏ルノーに転じて経営陣の仲間入りを果たし、40代前半で来日、瀕死だった日産自動車を蘇生させた。そして50代には日産のCEOを兼任したまま、ルノーのCEOに就任、その再建までやってのけた。ハイブリッドでトヨタ自動車、ホンダに大きく水をあけられたとみれば、日産のEV(電気自動車)化を加速し、超円高となれば海外への生産移転や部品の輸入に思い切り舵を切る。何もかもがスムーズに来たわけでもないし、中長期的に見て、これらの戦略に「問題なし」とは言い切れない。だが、これほどスケール感のある構想力を備えた経営者を私は知らない。

 日本の大企業の経営者とは対照的な存在である。大企業の経営者の多くは有能かつ有意な経験を積み重ねてきた人々だが、その人生の大半は“宮仕え”である。サラリーマン人生の最終章で社長となり、初めて経営の全責任を背負うことになる。もちろん就任早々、いきなり経営者として才能、才覚を発揮する強者もいる。だが20代から経営者として育てられてきたゴーン氏とのキャリアの差は埋められない。もちろんキャリアの長さがすべてではない。ひとつ間違えれば権力の長期化が腐敗につながる。

 だが経営者として経験値を積むことと、経営者になるプロセスで得た経験値を積むこととはまったく質が違う。経営とは調整ではなく構想だ。自社の未来を描くことこそが経営者に求められる最大の責務である。その点においてゴーン氏は経営のプロフェッショナリティを発揮している数少ない経営者と言える。